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ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのohassyのレビュー・感想・評価

3.5
本作は、フィクション作品としては50点であり、残りの50点は現実世界での出来事とそれを受けての我々の感情を拠り所として作られている。

バットマンにしろスパイダーマンにしろボンドにしろロミオにしろジュリエットにしろ織田信長にしろ、これまでもひとつのキャラクターを様々な俳優が演じてきたわけだし、そういう意味では代役というか新しいキャストで描くことは、フィクションとしては至極当然なこどではある。
本作が選んだ道は、どちらかといえば異端であると言えよう。
これまでのコンテンツの常識からすれば。

演者の死によってキャストが変更になった作品で思い出すのは「Dr.パルナサスの鏡」。
撮影中に亡くなったトニー役のヒース・レジャーの跡を次いだジョニーデップ、ジュードロウ、コリンファレルが、それぞれトリップした別世界でのトニーを演じることで、言い方は難しいが言葉では形容し難い作品性を与える結果になった。

本作は当然、今後のMCUのことを考えると新たなティ・チャラ役を立てることも、死ぬほど検討しただろう。
しかし、もしそうなったとして、ティ・チャラ役をチャドウィック以外の誰かが演じたことを想像しても、やはりどこか白けた感じにはなってしまうような気がしてしまう。
(もちろん代役を立てていたとしても誰も悪くはない)

これはアメコミヒーローの映画であってチャドウィックの映画ではないけれど、どちらかといえばかつて存在した英雄をアメコミヒーローに仕立てた作品と言った方が印象が近い。
映画表現としてダメなことは何もないし、むしろ現実を比喩的に取り入れているという点で言えば、見応えは増していると思う。

あらゆる情報が平等に身近に得られるようになってしまった現代、そしてより進む今後の世界では、もはや現実とフィクションの境界というものは、頭では理解しているつもりでも感情的にはとてもあいまいに溶け合い、キッパリと分けることはもはや不可能だろう。

純粋にエンタメのことについて言えば、ストーリーは冗長ではあるものの、クライマックスのアクションはとても見応えがあり手に汗握る出来栄えだ。
作品の中ではもちろん、外でも関係者や監督の気持ちを1人で背負うことになったシュリの奮闘は応援しがいがあるし、オコエ率いるドーラ・ミラージュも、ティ・チャラが欠けることで大幅ダウンしたワカンダの戦闘力を十分に底上げし、主演を喰うほどの魅力を放つ。

本作が選んだ道は、険しく未知なる挑戦だっただろうけれど、後続への力強い道標になるであろう。
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