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ボーはおそれているのohassyのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.8
すごかった、2度と観たくない

鑑賞直後の感想だ。
四章に分かれた各エピソードでボーに見舞われる仕打ちは、さすが「へレディタリー/継承」「ミッドサマー」のアリ・アスターだと思わせる。
主人公を、どこまでも理不尽な形で徹底的に痛めつけるその手腕たるや。
もちろん全てはコメディなのだけれど、そうは思わせてくれない描写と演技が観るものをとことん辛い気持ちにさせる。
後半は結構声を出して笑ったけれど(だんだんと「笑うしかない」という気持ちにさせられたのだ)

どこかで経験したこの感じ。
いくつか思いつくけれど、ダーレン・アロノフスキーの「マザー!」を強く思い起こさせた。
この手の理不尽劇は、多くがユダヤ教(旧約聖書)に端を発する物語だと相場が決まっているが、マザー!も本作もやはりそうらしい。
加えてユダヤ人の排斥の歴史、強烈な母系社会などが、カフカの系譜たる本作のベースとなっているようだ。
詳しくは町山さんのYoutubeに詳しいのでぜひご覧ください。
おおよそ全ての謎が解かれています。

ユダヤ教やその文化に疎い僕が語れることはあまりないけれど、極端なほど研ぎ澄まされた上で身近なところに落とし込まれた理不尽は、僕らの周りに溢れるあらゆる理不尽の象徴化とも言える。
実のところ僕らは
あのような荒廃した街に住み
あのように偽善に満ちた保護を受け
あのように行き場のない個人の脆い環境に身を寄せ合い
あのように全てをコントロールされた支配の中で
生き続けているのかもしれない。
そして結局は全てを諦め、あらゆる責を負わされ審判に身を委ねるしかないのかも。
それはまさにコメディとしか捉えようがない。

1章が特に印象に残っている。
思い返すほどに、人も街も部屋も、本っ当に嫌な感じ。
見事に作り込まれた素晴らしい描写だった。

あのシーンもう一度観たいな。
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