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哀れなるものたちのohassyのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.3
あまりにも語り口が多い。
社会性を含んだメッセージについて議論しようとすれば全てのシーンを取り上げることになるし、これほど作り込まれて凝縮された作品なのにも関わらず驚くほど余白が広くて、観た人それぞれがそれぞれの想いを語り出すことになるし、耳を傾けることになる。
とてもじゃないけれど、人生が足りない。
だからもう何も言うまい。

母親の無念(と言うべきなのだろうか)を受け継いだ娘が、あらゆるものの影響から解き放たれたまま成長を遂げるシンプルなストーリー。
その物語世界を作るのは、ただ見せるだけ、聴かせるだけの自己主張に留まるそれとはあらゆる意味で一線を画す美術と衣装と音楽。
それらが、もちろん言うまでもなく素晴らしい演者たちと分かち難く複雑に溶け合い、映画という総合芸術の極みを創造する。
これほどに暗喩に満ちながら豊かに語りかけてくる、作品表現にとって不可欠だと感じた美術、衣装、音楽もそうはない。
加えて、かつてクローネンバーグ、リンチ、ジュネたちが作り上げた世界をここまでポップに大衆化させることができるとは、これはなんたることだろう。

議論の的になるであろう、エマ・ストーン演じるベラの成長に合わせて進む物語の方角、出来事に対して、僕にはなんの意見もない。
彼女の選んだ道はそっちなんだな、と思うだけだ。
そんなことよりびっくりしてしまったのは、ベラが冒険を通して見聞き経験したことを真っ直ぐに感じ取り、躊躇なく行動に移すという、言ってしまえば当たり前の姿に、本当に目を開かされてしまったことだ。
僕らが毎日当たり前に経験している「知」と「経験」の真なる価値を、改めて叩きつけられたのだろう。
自分はいったいどんな「縛り」に監禁されてしまっているのだろう?いつの間に?

でも、どうやらその何かからは解放されても大丈夫みたいだ。
少なくとも向こう10年、この老耄でも「熱烈ジャンプ!」で行こう、行っていい、と思えた。
食事中に口からシャボンを飛ばす優雅な老後は、もう少し先に取っておくさ。
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