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PERFECT DAYSのohassyのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
3.8
人間とは思った以上に心で生きる動物であるし、人間の生活にはどんな瞬間にもドラマというものがあるし、人間は出来事の内容に関わらず幸福にも不幸にもなりうる。
というのは個人的に長年のテーマのようなものだけれど、ヴェンダースと役所広司のコンビともなると、こんなにもあっさりと形にしてしまうものか。

改めて世の映画批評を見直すまでもなく、ストーリーというものは映画にとって最も求められるものでありながら、最も忌み嫌われるものでもある。
ストーリーがいい、あるいはストーリーがつまらない、というのが映画の感想の多くを占めるのは、そういうことだろう。
でも映画の評価というものは案外ストーリーの良し悪しなどではなくて、たとえ全く同じストーリーだとしても真逆の評価になる可能性を秘めてる。
じゃあ何が評価を分けるのか?と言えば、演出であり演技である。

つまりいい映画に必要なのはいいストーリーよりいい演出家といい演者、ということになるけれど、本作を見ればそれは火を見るよりも明らかだろう。

ヴェンダースが撮る日本は、やっぱり日本人監督が撮る日本とは違う。
カメラのフレーミングに、日本の風景に対して僕らとは違う興味を持っていることが表れている。
一方で他の外国人監督とも明らかに違っていて、どこか日本に対する敬意のようなものを持ってくださっているように感じる。
どのあたりが?と説明はできないけれど、そのリスペクトはありありと感じることができる。
素直にうれしい。
しかも平山の生活圏は本当にご近所ばかりで、これほど住んでいる地域を愛おしく感じたことは初めてだ。
ありがたい。

TOTOと渋谷区の共同企画ということで、実際の公衆トイレで起こりうる生々しく現実的な世界が表現されることはないが、そのような社会問題を描いた作品ではない。
たまたま舞台が公衆トイレというだけで、これは生き方(働き方と言っていいかもしれない)と心の持ちようの物語だ。
職業はなんでもいい。
もし映画館で鑑賞するなら、観終わった後も明るい時間帯の上映回をぜひおすすめしたい。
帰り道がちょっと違って見えるから。

あと10年もすれば僕も平山の年齢に近づく。
その時僕は平山のように、自らの手で、心で、完璧な毎日を描くことができるだろうか?
50年も生きてきた今の自分でも到底できそうもないあのような達観に、あとたった10年で?!
ウソでしょ。

パンフレット売り切れは本当にしんどいが、本作は1時間を超える監督と役者陣のインタビューを見ることができるので助かる。
監督がインタビューを受ける部屋の素晴らしさったら無い。
緑から焦げ茶のグラデーションが美しいテーブルに、瑠璃色か紺桔梗あたりの深い藍色をしたカップ、チラチラと見え隠れする椅子の赤い背もたれ。
そしてもちろん、白壁に落ちる木漏れ陽。
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