竜どん

ルース・エドガーの竜どんのレビュー・感想・評価

ルース・エドガー(2019年製作の映画)
3.1
人種差別を中心に、出生・性別・病歴・夫婦間の価値観の相違等々登場人物各々が抱える様々な人間の「違い」による軋轢が我々の胸に突き刺さってくる重い作品。

主人公ルースは「アフリカの北朝鮮」とも評されるエリトリアで過酷な幼少時を過ごし、現両親に養子として引き取られアメリカ国籍を得た成績優秀な高校生。知的かつ穏健・社交的な表の顔と、仏領思想家フランツ・ファノンの「意見の対立は銃で解決する」を課題で代弁する様な攻撃的な裏の顔をも併せ持つ。…と書くと、既存のサイコサスペンスにありがちな二重人格設定に思われるが本作はそれには当たらない。
「リスペクタビリティ・ポリティクス」とは本作を調べる内に突き当った概念だが「マイノリティが社会に受け入れてもらうために模範的・規範的行動をする」という意味だそうだ。現代において本当の自分らしく生きることと社会に求められる自分であることは少なからず乖離していることはままあるが、ルースはその狭間で揺れ動き続ける。人心掌握に長けたルースが敵対者であるハリエット女史を淡々と冷酷に追い込んでいくが、そこに彼自身の愉悦は無く絶対的な「悪」とは描かれていない。その過程で生じた家族との溝に嗚咽をもらすルースの姿もまた真実の彼の一面なのだ。
作中折ある毎に「ルース」という彼の名前について触れられる場面が出てくるが、元の彼の名は母親には発音出来ずに改名を余儀なくされたとある。アメリカという国においては「彼の本当の名」=「本当の彼自身」は赦されざるべきものという暗喩だろうか。果たしてルースの生きるべき真実はどちらに?
ラスト期待・重圧もしくはもう一人の「自分」から逃げるかの様に必死に疾走を続けるルースの姿が哀しく狂おしい。
少年の名はルース(伊語で光の意)。
彼の者の行く道に「光」あれ。

追記
出演する全キャスト陣の演技が素晴らしい!
皆が皆清濁併せ持った役どころなので、逆に難解でモヤモヤしてしまう部分もあるのだが、単なる勧善懲悪に収まらないテーマを表現し切ったその手腕に喝采を送りたい。
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