Ren

hisのRenのレビュー・感想・評価

his(2020年製作の映画)
3.5
ありとあらゆる「好き」を肯定してきた今泉力哉監督が、ポスターに「好きだけでは どうしようもない」と掲げた今作。今泉作品の中でも特に、フワッとしておらずしっかり着地する話だった。

ありとあらゆる「好き」や「恋愛」を描いてきた今泉監督。彼はこれまで、不倫や浮気、年齢差恋愛を描いたりはしながらも、決して断罪せず、かと言って完全に包容もせず、市井の人々を人肌の温度感で心地よく描いてきた。
しかし今作では、明確に司法という第三者視点が登場する。彼のフィルモグラフィの中でも、優しくないシーンが多め。

女性との間に産まれた子を連れて、かつての恋人・辻(宮沢氷魚)の元に転がり込んだ渚(藤原季節)。3人の円満で温和な生活に頬を綻ばせる我々は、まるで玲奈(松本若菜)を悪役のように感じてしまう。が、彼女からしたら渚は、子を連れ不倫している夫。双方の矢が飛び交う終盤の法廷シーンは、夫がゲイであることを「普通じゃないケース」と言い放ったりすることも含めて、苦しくなる。

物語的に、空が担う役割が大きすぎるのでは?と思ってしまうことも少しあった。でも彼女の純真が、多くの離ればなれになった 2人 を結びつけたのも事実。結局離婚調停まで行ってしまったことを鑑みれば「好きだけではどうしようもない」ことは明らかだけど、彼女が、「だからって好きになること自体が罪」ではないことを教えてくれる。

この監督の特徴のひとつに、落ち着いたカメラワークがある。常に画角は人間の目線の高さで、これが観客も登場人物たちと同じ空間にいるような錯覚を起こす。
だからこそ、わーっと広がりを持って映し出されるラストは素敵だった。

宮沢氷魚の、儚げな透明感と脆さが素敵でした。2人のキスシーン。藤原季節が娘を想って抱擁し涙するシーン。今泉作品にしてはかなり激情型な挙動の数々が印象に残る。田舎の人々の演技は、ふわっと優しく。弁護士・戸田恵子の名演とのコントラストで、現実がグッと迫る。
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