Masato

1917 命をかけた伝令のMasatoのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.7

命を繋ぐ物語

1.90:1のIMAX案件なので、IMAX以上の環境で見に行こう。

伝言を伝えるために命をかけて戦場を渡り歩くワンシチュエーション戦争映画。なんと言っても、この映画の醍醐味は宣伝でも何度も言われている全編ワンカット映像。
途中で一度カットがあるから、日本の宣伝方法の全編ワンカットという謳い文句はグレーゾーンだが、そのカット以外はずっと繋がっていて、とにかく恐ろしい映像体験。バートマンが同じことをしているが、あれとは全くもって異なる趣旨の映像なので、今回は凄まじい。

端的に言ってしまえば、TPSの戦争ゲームを2時間のボリュームでプレイしたような感じ。ホラー映画のようにアトラクション感覚が強く、基本的にはセリフが殆ど無い。映像のみで、主人公の兵士からの視点のみでストーリーが語られていく。タイムリミットと迫りくる死の恐怖のハラハラドキドキのスリリングなアドベンチャー。CoDWW2やバトルフィールド1を思い出してしまう。

延々とカットをしない映像体験が最高の没入感を与える。単に撮影監督が腕自慢したいがための映像ではない。とにかくどうやって撮影しているのか、どの部分でカットとカットを上手くつなぎ合わせているのか全然分からなかった。それほど見せ方に工夫がなされているし、それでいてロジャー・ディーキンス撮影監督特有の淡い色感や奥行きのある映像などなど、映像美も味わえる。

圧倒的な映像体験でもお腹いっぱいになってしまうような映画だが、ストーリーもまた素晴らしい。プライベートライアンやダンケルクを彷彿とさせる「命を救うための決死の作戦」という題材が現代らしく、とても感動的。見れば見るほど、ダンケルクを思い出すので、サムメンデスはダンケルクをみてから製作に踏み切ったと思われる。

死と隣合わせの世界で、命の大切さを強調させる。それは、劇中でも多く語られる。多くの死体や死を目の当たりにし、これから生きようと懸命に生きる「生命」の象徴の赤ん坊や、人を想いやる兵士や家族たちの姿、独軍の罠で無駄死にしてしまう兵士を救う伝令のメインプロット。

こうしたシークエンスは、生と死、命を紐のように繋いでいくように感じられる。つまり、カット(Cut)せずに、ずっと繋がっていくこの映像もまた、「命を繋ぐ」物語のテーマ性のメタファーになっていることが素晴らしい。子どもが生まれなくなった世界で、唯一妊娠をした少女を命がけで運ぶ、アルフォンソ・キュアロンの「トゥモローワールド」ともかなり似ているし、なんなら小島秀夫の「DEATH STRANDING」も似ている。同じ繋がる物語。

そして、この物語は、WW1の伝令兵であったサムメンデス監督の祖父から聞いた話を基に作られている。映画という形で亡き祖父に対する尊敬と想いを表現したということが、最後でよく分かる。今ではありえない伝令の仕事の苦労。とても個人的だが、それが感動的だ。

カメオ的に英国の有名俳優が出演していることが、監督の信頼性の高さを顕著に表現している。コリンファースとカンバーバッチ。とても素晴らしい。ジョージマッケイの良い意味で標準的な感じが、いち兵士のモブ感があり、それがまた一人一人の行動によって人の命が救われているという感覚があり、とても良かった。

オスカー作品賞大本命も納得な映画。必見。


追記
他のレビュアーさんが聖書に基づいていると解釈していたので、思わず納得しました。最初の聖水。茨を彷彿とさせる有刺鉄線、(ヨルダン川を彷彿とさせる)川と宗教歌、処女懐胎さながらの女性、鳴り響く鐘と焼かれる教会、命の木。

これは、伝令兵だった祖父を聖書と重なり合わすことで、最大の尊敬を払ったのではないか?
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