カツマ

1917 命をかけた伝令のカツマのレビュー・感想・評価

1917 命をかけた伝令(2019年製作の映画)
4.5
地獄のような道を駆け抜ける。亡骸は沈み、銃弾が掠め、壊れていくだけの荒野の泥が死の床を弾く。もはやそれは修羅の道。綱渡りのような伝令が、炸裂音の合間を閃光のごとく走りに走る、息が苦しくなるほどの没入体験。気が付けば110分は一瞬のように過ぎ去って、戦場に呑み込まれたかのように呆然としてしまっていた。

今年度のアカデミー賞を賑わせたサム・メンデス監督による緊迫の戦場ドラマがついに日本公開!極限まで引き伸ばされた長回しと、神業とも呼びたい映像技巧が一体化した、劇場で体感すべき超体験型の作品だった。このレベルの代物を観てしまうと、ロジャー・ディーキンスによるアカデミー賞撮影賞の受賞はあまりにも妥当すぎる結果だったと思えてくる。元ネタはサム・メンデスの祖父にあたるアルフレッド・H・メンデスから伝え聞いた逸話から。鬼気迫る映像が映画の限界に挑戦したかのような、迫力と緊迫の映像体験を約束してくれることだろう。

〜あらすじ〜

1917年4月6日。時は第一次世界大戦の真っ只中。ドイツ軍と交戦中のイギリス軍は、ドイツ軍の戦略的撤退の情報を空からの偵察部隊によってキャッチしていた。だが、前線の兵士たちは今が好機とばかりにドイツ軍への進軍を開始する間際であり、ドイツ軍の罠が待っていることを早急に伝令する必要があった。
そこでイギリス軍のエリンモア将軍はトムとウィル、二人の兵士に前線への伝令を託した。そのために二人は無人地帯を突破するという危ない橋を渡らなくてはならず、死と隣り合わせの任務は決死の伝令となった。
実際、二人はドイツ軍の基地がもぬけの殻であることを確認するも、そこで思わぬ事態に出くわすことになり・・。

〜見どころと感想〜

とにかく凄まじい。あまりの迫力と緊迫感にどうしようもなく吸い込まれる作品だった。戦場のリアルを描き切り、その地獄のような現場を自殺行為のごとく突き進む二人の若者たち。もうそれはいつ死んでもおかしくないくらいの無謀な伝令であり、手に汗握る展開が永続的に続くという、とてつもない緊張感の連続だった。また、ラストの激走までをワンカットで撮影しているかのような手法で撮影されている(実際にはワンカットではなく、いくつかの長回しをスムーズに繋ぎ合わせることでそう見せている)、という点も今作を鑑賞する上での醍醐味の一つだろう。

今作は映画界のそれぞれの分野のトップランカーたちによって形成されたザ・オールスターな布陣で撮られた。撮影監督のロジャーはもちろん、『ダンケルク』でアカデミー賞編集賞を受賞しているリー・スミス。同じくアカデミー賞に10回以上のノミネート実績を持つ映画音楽の伝道師トーマス・ニューマンなど、巨匠ばかりのラインナップが揃ってこそ実現できた奇跡のような一本だ。

対して主演二人には若手俳優のジョージ・マッケイとディーン・チャールズ・チャップマンを起用。ワンポイントでしか登場してこない将校たちにコリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ、マーク・ストロング、といった名優たちがキャスティングされ、若手二人に様々なメッセージを投げかけている。

戦場のリアルに肉薄し、極限状態の映像化に挑んだ本作。正に最高峰の映画体験であり、その没入感は映画を劇場で観ることの醍醐味を再確認させてくれることだろう。配信映画が増加する現代映画シーンだからこそ、大スクリーンで観なくてはならない、と思わせてくれるカウンターのような大作が必要だ。それを完璧な形で提示したのが本作であり、またオールスターたちで構成された映画人たちによる熱量の塊だった。

〜あとがきー

賞レース前は今年のアカデミー賞の本命の一本とも言われた作品をようやく鑑賞してきました!結果として『パラサイト』に軍配が上がったことはとても素晴らしい結果だったと思いますが、今作もまた作品賞受賞に十分に相応しい作品だったと言い切りたいですね。

とにかく映像体験としての密度、深度、緊迫感。そしてワンカット風の流れるような撮影など、どこを切っても映画館で体感すべき作品です。特にIMAXで観ることを強く強くオススメしたいと思います!音響とのリンクが段違いですし、没入感マックスで今作を体感できることでしょう。完璧に環境を整えて、この決死の戦場へと足を踏み入れてほしいと思います。
カツマ

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