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異端の鳥のkekqのネタバレレビュー・内容・結末

異端の鳥(2019年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

2023年〆の一本。ある程度覚悟はしていたが、ちょっとしんどすぎた。
あまりにもまともじゃなさすぎる。安全が脅かされすぎる。だが最後まで観てよかったと思える、素晴らしい作品だった。

全体的に異常に寡黙で音楽もない。主人公がいっさい人に質問をしないため、なされるがままに状況だけがどんどん進んでいく。
短時間で切り替わるおとぎ話のような展開はユニークで「あわれな○○はとうとう○○されてしまいました」という筋書きが見えるようだった。

そしてモノクロ高精細の映像がヤバいほど洗練されており、全カット没入感がとんでもない。大規模な写真展を堪能しているような崇高さすらあり、構図がとにかく美しかった。

本当に嫌だけど、物語とも向き合いたい。
人名が冠された章が移るたびに舞台と登場人物が変わり、少年の命を支える大切なものがひとつずつ、無慈悲に潰されていく。
親族の庇護に置かれた環境はあっさりと奪われ、村に入っただけで虐げられ、子供としてはまったく尊重されず、理不尽極まりない暴力と凌辱を見せつけられ続ける。

ただの傍観者としていなければならない前半は世界が狂いすぎていて本当にキツいが、主人公の行動に自発性が生まれる後半も相当つらい。

出鱈目な自国民とは対照的に、理性的にふるまうのは異教であるキリスト教司祭、諸悪の根源であるドイツ兵、共産主義で東欧を支配しようとするソ連兵というサディスティックさ。
ただ「悪い人の中にもいい人がいるんだ、よかったね」で済ませては絶対にならず、宗教的、民族的、国民的なアイデンティティを放棄する以外の選択肢がない状況の過酷さを露骨に描いている。

生きる力を身に着けるごとに、少年がまったく喋れなくなるのも残酷すぎる。ラストの父親に怨みを向ける表情の凄まじさ…。
人間の作り出した地獄を生き延びるとはどういうことか、ある意味最もシンプルに伝えてくれる作品だった。

これだけのことがあってもまだ人間は戦争をしている。この事実をここまで重く受け止めさせてくれる映画もそうそうない。

2023年も良い映画をたくさん観ることができた。2024年もどうか映画が観られる人生でありますように。
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