みほみほ

ザ・レポートのみほみほのレビュー・感想・評価

ザ・レポート(2019年製作の映画)
4.3
📝2020年388本目📝

9.11以降行われてきた【EIT=強化尋問テクニック】に対するレポートから読み説かれる、CIAの残忍な拷問の数々。息の詰まる拷問シーンの数々に、目を背けたくなるしあまりに陰湿に計算された野蛮さに恐怖と嫌悪感を覚える。

【EIT】と名付けてしまえば聞こえは良いが、やっている事は紛れもなく拷問である。それもかなり精神ダメージの大きい陰湿なもの。最初の方なんて、本来の目的には反した人体実験そのものであり、日本に原爆を落とした時と同じように、目的の裏にアメリカが持つ思惑があるのが見えてくるからおぞましい。

CIAとは一体何の為の組織なのか…?!を考えさせられる、怒りと疑問の募る作品である。

内容がチンプンカンプンな人は、必ず「ゼロ・ダーク・サーティ」を観てほしい。併せて「スノーデン」も観ておくとより良い。あとは「記者たち」なんかもオススメしておく。

テロに対する憎しみが、誤った方向へと力を強めていく正当化の恐ろしさ。間違った使命感から生まれる野蛮で残忍な拷問。それを合法の下、国民から集めた税金で行っているというおぞましい事実。

ある人は賛成するかもしれない。それはテロへの憎しみと恐怖に支配されて正当化できるから。犯人探しという大義名分を掲げながら、現実やっている事は正義でも何でもなく、ビンラディンとは直接結びつかないような末端ばかり。関係のない人が痛めつけられ、命まで奪われた者がいると思うと、テロ以前の問題として怒りに震える。

「ゼロ・ダーク・サーティ」では、上からの命令と使命感に板挟みになり、拷問を行う事に心を病んで疲弊するCIA局員が描かれていたが、今作を観ると「ゼロ・ダーク・サーティ」では描ききれなかった方向性の話が描かれているので、かなり見応えがあった。

実際に「ゼロ・ダーク・サーティ」の宣伝シーンが映る場面があるのだが、過去に観た後に感じた感情が全部吹き飛んでしまいそうな気持ちになった。「ゼロ・ダーク・サーティ」はどう考えてもCIA寄りの作品であるし、CIAの苦労も知ってね!と言ったような光景が沢山描かれている。今作を観ると、テロという大惨事を目の前にして、何を信じたら良いのか…正しい行いとは何なのか、一瞬見失いそうになる。

それ故に今作が作られた事の意義に、嬉しくて泣きそうになる。これぞアメリカの清き姿勢。事実を認めて同じ過ちは犯さないと誓おうとする姿勢に感動する。


今作中で何より恐ろしかったのが、当初から【EIT】に関わっていた心理学者である。どう痛めつけると拷問として効果的なのか、より陰湿な方法を研究し実践しようとする姿に背筋が凍ったし、強い嫌悪感を覚えた。あんな人間のもと…実験に使われた犬が可哀想で仕方ない。本当に腹立たしいし、心理学を残酷な方に使って欲しくない。

殆ど勾留の必要性のない人間を捕まえては、シラミ潰しのように拷問にかけて、核心に辿り着くどころか人を苦しめているだけの【EIT】は、許されざる残虐な行為である。

2004年4月のアメリカ軍による捕虜虐待のニュースは、今でも鮮明に覚えている。テロに対する怒りがこういう形となって、悪い風潮を生んでしまったのが悲しいし、とても胸糞悪い嫌なニュースだった。

「記者たち」を観た時にも感じた事だが、パウエルさんはいつも仲間外れにされているイメージで、今作でも彼だけ聞かされていない事項があったりしたのが印象に残った。彼が知ったら激怒するに決まってるというようなニュアンスだったと思うが、人道的な考えを持っているが、何か共有する事を拒まれる理由があるのかも気になるところ。

ブッシュも拷問内容を詳しく知らされておらず、後々拷問の様子を見せたら、嫌悪感を示していたと描かれていたし、大統領に話が行く以前に複雑に絡み合った様々な事柄が起きているのだと思うと、大統領も難しい立場にいるなと思わされる。

「記者たち」で猛烈にブッシュを嫌いになったが、実際裏で操っている人間が居たりしてね…

無人機攻撃も関係のない民間人に死者を出しているし、CIAが法の下行っている野蛮な行為は、国家の安全維持とみなされて関わったCIA職員が一切裁かれず、むしろ昇進している事にも矛盾を感じる。最後のジョージ・ワシントンの言葉が深く重く突き刺さった。

正直、この映画が作られる事自体…アメリカは本当に凄いと思う。大国として事実を認めて、繰り返さないよう伝える事はとても大切な事。隠蔽される事なく表に出て、国民の知るところとなった事は本当に良かったし、アメリカのこういう部分って憧れるし好きだな。

日本では考えられないけど…国が大きければ大きいだけ内部で様々な論争が生まれ、正義を解き明かす事が難解になる中で、レポートを作り上げた彼らの偉業と、腐らずに真相を追求しようとした上院議員の姿勢が素晴らしかったです。

スッキリするようなお話ではなかったけど、難しい問題と立ち向かって闘う姿にかなりのめり込めました。悔しいけれど、やはりアメリカが指針となって世界は回っているという事を認めざるを得ない規模のテーマだけに、凄い…!という言葉しか出ない私でした。

前半は吹替、後半は字幕、ラストスパートは吹替と字幕を半々にしましたが、前半観た後で冒頭に戻って10分程見返したので、より理解が深まりました。

「ゼロ・ダーク・サーティ」を観た方には、かなりオススメしたい作品です。アメリカという国の良い部分と悪い部分が同居した作品でした🗽


アダム・ドライバーの演技が熱がこもってて素晴らしかった。寡黙なイメージがあるだけに感情的になるシーンの彼の魅力が半端ない。
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