カツマ

ザ・レポートのカツマのレビュー・感想・評価

ザ・レポート(2019年製作の映画)
3.8
一つの物語をまた別の断片から見てみると、全く新しい物語が生まれている。それは対象が大きければ大きいほど、その副産物としての傷跡を大きくし、教訓としての側面を色濃く覗かせる。9.11でのあまりに大き過ぎる惨事はその後も語られ尽くし、ついにはその断片を細かくし、こうしてCIAの拷問に関する文書、というストーリーを世に問うた。そこにあるのは自己啓発的な米国の姿。暗部を曝け出すことで、起きてしまった事実を忘れさせんとする硬派な社会ドラマである。

アマゾンプライムで配信されているアダム・ドライバー主演、スコット・Z・バーンズ監督作品。バーンズはスティーブン・ソダーバーグ監督作品の脚本家として知られる人で、監督作品としては過去最大規模かと思う(ちなみにソダーバーグ自身も制作にその名を連ねている)。これはかの名作『ゼロ・ダーク・サーティ』でも遂行されていたあの拷問現場のこと。それを公的に非であると認めさせた、ある公務員の闘いの記録。

〜あらすじ〜

ハーバード大卒の才人、ダニエル・J・ジョーンズ(ダン)は、上院議員のもとで調査スタッフとしてとある調査に励んできた。それはCIAによる尋問強化プロジェクトを調査するという極秘文書の作成であり、それによってはCIAの捜査は大統領が厳命する拷問の禁止事項に触れることになる。
2009年、上院議員のワインスタインはその調査をダンへと支持。ダンは周囲からの冷たい視線を乗り越え、数年にわたり7000ページにわたる膨大な文書を完成。ついにはCIAによる拷問行為を白日のもとに晒す準備は整った。が、それを公表するのはCIAの妨害もあり非常に難解、ワインスタイン自身も公表には二の足を踏むほどとなっていた。文書を阻止しようとするCIAはついにはダン個人へと標的を移すことにして・・。

〜見どころと感想〜

真実に沿っているであろうロジカルな脚本が徹底された非常に硬派な作品で、事の真相と問題提起を分かりやすく明示したという意味でもその映画作りには好感が持てる。堅固な内容なため、難解な表現も多い。が、劇中で敢えて『ゼロ・ダーク・サーティ』の映像を差し込んだりなど、それを噛み砕いて説明しようとする工夫もしっかりとなされている。ただ、そこで説明的過ぎても面白くはないため、エンタメ要素としてダンを取り巻く政治サスペンス映画としての側面も持たせているあたりは巧みであった。

主演のアダム・ドライバーは正に2019年を象徴する俳優だ。『スターウォーズ』『マリッジ・ストーリー』などを筆頭に基本的に彼が出演する作品にハズレはない。助演には名優アネット・ベニング。ほぼ、アダムとアネットの演技合戦の様相も呈するほど、この二人の演技力は突出していた。『ベイビー・ドライバー』などに出演のジョン・ハムをワンポイントで起用するなど、細かい出演陣にも注目だ。

CIAの裏側で起きていた9.11後の副産物としての惨劇。それに真っ向からノーを叩きつけたのが本作であり、実際に叩きつけられたそれはこうして映像化され、二度と繰り返してはならない事実としてはっきりと刻印された。メッセージ性が強く、教学としても機能する作品だけにぜひ劇場公開してほしかった。映画としてのあるべく姿をはっきりと提示した意義深い一本でした。

〜あとがき〜

配信限定なのが勿体ないと言い切れるほど緻密に構築された社会派映画でしたね。アダム・ドライバーの演技も素晴らしく、地味な画面ながら彼の魅力もあって2時間退屈させない作りになっています。社会ドラマとエンタメの高次元での結実、という点ではやはりソダーバーグ色は強い作品かなと思いましたね。
カツマ

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