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マイルス・デイビス: クールの誕生のメルのレビュー・感想・評価

4.2
何度も沈み何度も浮かび上がった男、マイルス・デイビス。
浮かび上がる度に若いミュージシャンを引き連れて新しいスタイルで復活した彼は生涯を通して挑戦する男だった。

多くの写真、映像、元妻達(複数)も含め多くの共演者へのインタビューで、彼の人生の最期の時まで語られるドキュメンタリー。

マイルス本人がそれまでに何時間も喋ったテープが劣化して聞き取りづらいため、カール・ランブリーという俳優が声を真似て語るスタイルも面白い。

経済的に恵まれた育ちでジュリアード音楽院で学んだとか、若くして成功したとか、チャーリー・パーカーの影響で薬物に溺れたり、ジャズの帝王と呼ばれた等はよく知られている。

今作で印象的だったのは彼を支えた多くの女性たちが語る、幸せな時と別れの兆し。
マイルスの父親がそうであった様に大きな原因はDV。

元妻の1人で世界一の美脚と呼ばれたフランシス・テイラーは「後悔はしていないし、痛みも忘れない。今でも愛してる」と。
マイルスは意外にも恋愛体質で、彼女達を心から愛したのだと思う。
あのロマンチックで色っぽい音色にその辺が出ているのかも知れない。

ハービー・ハンコックは彼の音を「水面をスキップして波を掴んでいく様なエレガントな音」だと表現した。

その一方で、才能豊かで成功を手にしても理不尽に警官に殴られたり。ジャケットが血だらけになったのを見ると、黒人としてアメリカで生きていくことの大変さを改めて感じさせられる。

80年代に復活した時にも何回か来日しているようで、タモリさんと対談してるのを何処かで見た記憶があるのですが、対談中にずっとスケッチしていましたね。その後本格的に絵も描いた様です。

1940年代ビバップ全盛の頃にデビューして50年代に入りミュートを使った独特の音色を確立し「死刑台のエレベーター」のスクリーンを見ながら即興で吹く姿とあの音色、あれが私にとって1番クールなマイルス・デイビスだったと再認識しました。

「バラードは勇気が要るよね、音符の数が多い程誤魔化しも効くから…」って言ったサンタナには声を出して笑った🤣
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