岡田拓朗

mellowの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

mellow(2020年製作の映画)
4.1
mellow

その想い、この花とまれ。

街で一番おしゃれな花屋と廃業寸前のラーメン屋を舞台に巻き起こる恋愛群像エンターテイメント。

これまた優しさに溢れている映画。
今泉力哉監督が大切にしたいと思っている人と人との関係のあり方が、それぞれの片想いを軸に詰め込まれている。
共通してあるのは嘘のないポジティブな交わりと恋愛関係が終わった先にも続いていく違った形の温かみのある関係。

ただの日常が描かれているだけと言ったらそれまでなのだが、叶わないであろうと悟っている「片想い」を胸にしまわずに相手に伝えられる状態が、色んな観点から丁寧に描かれていて、日常は日常でも理想を軸にしたフィクショナルな日常でもあるような感じがする。

忙しなく生きる中にも優しさがじんわりと沁み渡ってきて、何気なく交わしている言葉に気を遣って優しさを入れたくなる。
そんな優しい魔法がかかったような余韻に浸れる。

片想いの状態と半ば知りながら、告白することはとても勇気がいるだろう。
それは今ある関係すらなくなってしまうのではないか、嫌われてしまうのではないか、茶化されるのではないか、気まずくなってしまうのではないかと、色んな後ろめたさを乗り越えないといけないからだ。

だから「好き」という想いは、相手にも知られないままに、伝わらないままに終わることも多いだろう。
でも本作にはそれらを乗り越えて告白し、振られた場合でもその先にこそある愛おしい関係性を描くことで、尊い関係は何も恋愛関係だけではなく、それ以外の関係もあるんだということを示してくれている。

ありがとう。
でも、ごめんなさい。

告白を断るときの魔法の言葉。
ごめんなさいだけでなく、前にありがとうを入れる。
それだけで想いを伝えてよかったと思える。
で、その後はまた今までと違った、より踏み込んだ温かみのある関係が生まれていく。

そんな素敵な片想いの連鎖が色んな方向に、じんわりと広がっていく感じがとてもよかった。

そこに『カルテット』や『最高の離婚』を彷彿とさせるような思わず(優しく温かみのある)笑みがこぼれてしまうシーンが随所に入ってくる脚本もよい。
劇場内も思わず笑みがこぼれてる人がたくさんいて、片想い映画なのに幸福感に満ちていた。

大切だからこそ裏でこそこそとするのではなく、ちゃんと本心を伝える。
青木夫婦と夏目が交わるあの例のシーン。
わりと攻めたなーと思ったんですが、あのシーンをあれだけ温かい笑いに包まれるシーンにできるのは物凄い手腕だと思った。

実際だとあの状況下でああなるのは確かに想定外だし、修羅場にもなりかねない。
でもあそこでまた幼き少女の目からハッとさせられるところもあって、それを想定外と捉えるのも勝手に作った固定観念が作ったものなんかなとも思わされた。

夫の好きに溢れる優しさが、あのような形になっていくこともあるんだなと。
丁寧に描かれてるからこそ、確かにそれもあるかと考えを改めることができた。

このように人と人の関係に制限を作らずに、色んな可能性を残し続けて、よい意味で固定観念を壊し広げてくれるのもまた今泉力哉監督作品を鑑賞する上での醍醐味。

そんなじんわりと色んな方向や関係に広がっていく温かい群像劇が、ラストにじんわりと理想の形で終わってくれるのもたまらなくよかった。

これもまた色んな方に観て欲しいなーと思えた作品です。

P.S.
今までで最高の田中圭。
観た作品の中で田中圭の一番のハマり役だなと個人的には思った。
優しいお兄さんという立ち位置もそうだし、笑っちゃうシーンを笑っちゃうのは田中圭だからこそ活きてくる細かい演技のよさもあった。
ともさかりえの無神経やけど憎めない感じのキャラもハマってたし、若手キャスト陣(岡崎紗絵とSUMIRE以外)初めて観た方だったけど、みなさん素敵でした。
岡田拓朗

岡田拓朗