Kuuta

情事のKuutaのレビュー・感想・評価

情事(1960年製作の映画)
4.2
孤島にバカンスに来たアンナが失踪。アンナの友人クラウディア(モニカ・ヴィッティ)と、アンナの恋人(ガブリエル・フェルゼッティ)が捜索の旅を始め、色々あってセックスするお話。改めて文字にすると酷えな。

互いにアンナを失った喪失感や不安を抱えており、その隙間を埋めるように性欲に寄りかかって身を近づけ、自己嫌悪に陥る。クラウディアがアンナを真似て黒髪のカツラを付ける所はもろにヒッチコック。

アンナという空白が常にお話の下地にある。失踪理由が最後まで分からないのが大変気持ち悪いし、クラウディアがアンナのことをどんどん忘れていく構成も斬新。

最初は主人公に思われた人間がこんなに雑に扱われる事自体、自分がこの世からいなくなろうが、世の中は淡々と回っていくという、当たり前の虚しさを改めて突きつけられる感じがした。対する残された側も、どこまでいっても他者を失う不安に囚われ、身を傷つけるばかり。欲求の連鎖からは抜けられない。

鐘の音による、目に見えない相手とのコミュニケーションが、曖昧な記憶を上書きしていく。ラストで波の音が聞こえてきて、海に消えたアンナの記憶が2人の間に蘇り、互いに涙する。音への意識の高さはアントニオーニの他作品にも通じる所。

撮影が素晴らしい。縦の構図を生かした男女のすれ違いの積み重ね。紐や手すり、扉を使った狭い空間の画面の切り分け、人の立ち位置の交代と横パンの多用。屋内でのローアングルも印象的だった。

そこに、雄大な自然や、大きな建築物を背景に取り込み、ポツンと人が立ち尽くすロングショットや、愛し合う場面のクローズアップが挟み込まれる。終盤、不安に駆られたクラウディアが駆け回る無人の街の寂寥感が見事。心情をロケーションに絡めて的確に撮り分けている。

惜しむらくはラストシーン。この2人の関係について、かなり説明的なカットが入る。緊張が一瞬で途切れてしまった。あそこだけは、取ってつけたようなメロドラマに見えてしまった。84点。
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