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タイトル、拒絶のohassyのレビュー・感想・評価

タイトル、拒絶(2019年製作の映画)
3.7
監督の山田さんとはその昔、TFMの番組で数ヶ月ほどご一緒した仲。
その後、主宰する劇団「ロ字ック」の舞台劇にお邪魔して目撃したのが本作の元となった「タイトル、拒絶」だった。
資料を見ると2013年の公演とあるけれど、もう少し最近だった気がするので再演だったのだろうか。
圧倒的な熱量を浴びた記憶がある。

映画になった本作は、舞台の直接的な熱量から、カメラを通した(つまりは監督の)視点が強まり、とても映画的な魂の乗った作品になっているように思う。
時々舞台のような演出が顔を出す瞬間を感じることもある。
しかし、自ら映画を監督する内田プロデューサーや撮影、何より信頼できる出演陣の力で、しっかりと「映画」が完成している。
主演の伊藤沙莉は納得のキャスティングで、他の人の可能性はあまり想像できないほど。
一方で意外性があって想像を超えてきたのが、ナンバーワン風俗嬢を演じる恒松佑里。
「散歩する侵略者」でその存在を知って注目していたのだけれど、こんなところでこんな役を演じているとは。
ナイスキャスティングですなボダパカ伊藤さん。

その妹役として登場する英会話のGABAの人・モトーラ世理奈も違和感すごくて、存在そのものも、金の無心をする相手を蔑むことで自らをどんどん貶めていくさまも、ラストのぶん投げも。
なじられても文字通り投げ捨てられても、男を包もうとするキョウコを演じる森田想は、スパイの妻にも出てたんですね。
もう一度、ナイスですな伊藤さん。

本作はいわゆるセクシャルワーカー・デリヘル嬢たちの物語ではあるけれど、彼女たちを一つの言葉で括る行為に対して全力で抗おうとしているように思える。
それぞれには事情や考えがあってその場所にいるのだろうが、例えば「選択してそこにいるのだろう」とか、逆に「社会の不寛容がそうさせているのだろう」とか、そういった安直な言葉をまさに拒絶する。
特に男である僕には何も言われたくないだろう、そんな気がしてならない。
映画は見てもらうけど意見はするな、そんな感じ。

いや、それは僕が感想を述べることにビビっているだけかもしれない。
でも、だからと言ってビビることを笑われる筋合いはないけど!
だって、やりたくもない風俗の仕事をする女性たちというのは、そういうものだろうと思うしかないし、やりたくない仕事をしている人間はたくさんいて、違いがあるとすればそれは程度の差でしか無いと思う。
やりたくない仕事を仕方なく我慢してやる、というのは極めて個人的なことだから、判断は人それぞれで、比べられるものではない。

それより本作で厄介なのは、理解できない男たちの言動だ。
言い寄ってくるお店の子に対して信じられないほど罵倒して車から放り出したり、大切な商品でビジネスの源泉であるはずの女性たちに対して心底最低な言葉で罵ったりと、いやそれはちょっといくらなんでも創作しすぎでしょ?と思わせる。
しかしそう感じているのは、僕という「男」だ。
危険な考え方だろう。
このシナリオとセリフから感じ取らなければいけないのは「そんなこたあない」ではなく、おそらく女性、少なくとも山田監督にとって男の言動は「そういうものだ」という、無遠慮な叫びだ。
思考停止してはいけない、思考停止は非常に危険だ。

これが何より、レビューの筆を遅らせる。
非常にめんどくさい、できれば「トムクルーズ最高!」とかで済ませたい。
しかしながら魂の乗った物語には魂の乗ったレビューを返さなくてはならず、それにはまだ時間も思考も足りない。
少なくとも自信を持って反論できる状態で、男だってなぁ!と叫ばなくてはならない。

男女平等というのなら、生きにくい社会というものに男も女もないだろう。
だから職業選択の自由だって同じはずだ、などと思うこともある。
でもそれってホントかな?
男である以上、女性のことは贔屓目で見るくらいでないと実は均衡が保たれないのでは?
自分の常識は疑ってかからないと。

止めどなく行き場のない僕の思考はともかく、だらだらと公開されている作品ではないので見逃さないようにご注意を。
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