とても難しい試みをしている映画だと思う。
例えるなら『悪魔のいけにえ』の兄弟の心の闇に迫ろうとしているような映画だ。『悪魔のいけにえ』の争点はあくまでレザーフェイスの暴力性であって、過去ではない。むしろ過去は意識的に捨象されている。
『はるヲうるひと』の争点は過去だ。
複雑で具体的な過去から、現在の葛藤や暴力性、未来への不安が描かれている。
「複雑で具体的な過去」はぼくの想像の余地を超えていて、山田孝之、佐藤次郎、坂井真紀らの演技がいかに迫真に迫っていても共感するのは難しい。
もしも、佐藤次郎の凶暴さがメインであったならば。レザーフェイスのようにいつまでも森の中を追いかけ回すようなしつこさがあったならば。現在進行形の恐怖と絶望を獲得していただろう。
もしくはサスペンス映画のように、彼らの過去が紐解かれていくことが争点だったならば、驚きを持ってそれを迎え入れることができたかもしれない。
でも、佐藤次郎監督の描く世界はそのようなものではなく、徹頭徹尾「過去からの現在」だ。
役者陣の演技、架空の島の世界観、センスが光るセリフ回しなど、唸らされるところの多い作品だった。
『世界の中心で愛を叫ぶ』のように、過去を現在に呼び戻すのではなく、過去はあくまで過去として描きながら、現在に想像力を働かせる。
冒頭で「難しい試み」という表現をしたけど、この作品で詳らかにされたのは、映画における宿題のようなものなのかもしれない。