まりぃくりすてぃ

ビギル勝利のホイッスルのまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

ビギル勝利のホイッスル(2019年製作の映画)
-
「女子サッカーの男性監督」っていう題材が、取ってつけたように途中から加わって、、、 混雑上等とばかりに主軸のない、拙い構成で押し通していて、秀作とはとても認められないけれど、雑なまま途中からスゴくなり、終盤にかけてけっこう私の瞳を湿らせてくれた! 映画作品というより農産物の民芸品(例えば超巨大カボチャの胴+超巨大スイカの頭部+極彩ペインティング)みたいなパワーをもつ! 食べきれちゃって、充足。177分あるが138分程度の体感だったよ。

偏見か知ったかぶりで書いちゃえば、、
モリウッドと呼ばれる南インド系(タミル語圏)の派手映画は、いわゆるボリウッド(中~北部のヒンディー語圏の、アーミル・カーンとかが出てくるような)を数年後れで洗練度低く焼き直したようなプロットやムードのものが多く(例:2009年作『きっと、うまくいく』をどこか真似た2015年作『チャーリー』とか)、本作もそういう練れてなさを脚本にも演出全般にも感じちゃった。
そして2016年作『ダンガル きっと、つよくなる』、2017年作『シークレット・スーパースター』、2018年作『パッドマン』、とボリウッドの大傑作の連なりを観てきて私は、「全インド(さらには全世界)の圧迫されてる女性を救い出したいんだ! これこそが最重要な主題だ!」というインド映画界のトレンドに幾度も感動をもらいつつも、彼らがどこまで本気なのかには疑いのまなざしを今まで向けてきた。「女性を主な標的にしたアシッドアタックの多発」「一般インド男性からの不可触民(さらにはネズミ食べ民)女性へのレイプの多発」という現代インドが抱える最も悲惨な女性被虐の社会的恥部にまでインド映画が切り込んでくれるまでは、と。
   ▼ネタバレ▼
だから私は、本作の中盤終わり頃の「残り二選手、ガヤートリとアニタの招集」のところで、「アニタ。この人、まさかああいう目には遭わないだろうな。ここはもう流れ的にアシッドだけど。どうせインド映画はアシッドまでは描かないんだよ」と諦めかけて「え? 生卵? フン、やっぱり」となったが、それが卵じゃなかったと知った瞬間、凍りついた!! ついに、ついにやってしまった!! ついに来たぁ! インド映画はやっぱり自国内の社会問題について本気の本気を出すんだぁぁぁ!!!!!
そこからはもう、雑さからの挽回(洗練度の向上)は特にないままに本気度という熱量だけは存分に観客席に届けられつづける、という異常事態に私は感電しちゃって、涙じわじわを本当に繰り返した。こ・れ・が・イ・ン・ド。。。。
ボケーッと死魚の目で生きてる者だらけの日本は、福島のあれだけの大惨事を経ても、政治や社会がどんだけ狂って腐っても、沖縄がどんだけ苦しんでても、そういうのを何一つ直視しない映画人が多数を占めて占めて占めつづけて、たまに気骨ある正しい人がいても潰されてすぐ大人しくなる。彼我のこの違い。
そりゃ、インド社会はふだんから(日本と比べてたぶんはるかに)暴力的で規律が成ってないみたいだから(例えばコロナの今年、医療関係者や感染を疑われた人や東アジア人への暴行事件がかなりあったみたいだし)、そういう暴力性と一続きに男も女もパワーに溢れてる(このことは韓国映画や韓国社会のパワーにも通ずる)ってことでもあろうけども、それにしても生ぬる映画しか作られないような日本にいてカレーの国(ついでにキムチの国)の商業映画の底力(巧さとか洗練とかもうそういうの超えて。学生運動もちゃんとあるし)にもやられて泣けて泣けて。(私たちはワサビとショウガの国だから、ムリしてインドや韓国みたいに辛いの食べなくても、せめてお寿司お刺身をいっぱい食べれば熱くなれるのかな。)
もちろん、スクリーンの一人一人への感情移入もあった。サッカー試合とかについてはどうでもよかったけど。。

アシッド犯人へのあんな対応はあまりにもバランスとれなさすぎるし、アシッドやられたらまず失明を伴うし、あんな熱湯ケロイドみたいな生易しいもんじゃなく鼻溶けなどしてもっともっともっとモンスターになるんだから、展開的に甘すぎるぶん、よく考えれば単に胸クソ。(犯人は不慮の事故死でもしてほしかった。) でも、ここへ来て前半からの「あまりにも詰め込めすぎて素材が渋滞してる~っ。これ、サッカー映画でも女性鼓舞映画でもなくて、ただのヤクザアクション+父と息子の分かり合いじゃん?」な軸のヘンテコリンさが妙に生きて、ヒーローのヴィジャイが「暴力の連鎖のシャットアウト」というお説教映画性を全力であっけらかんと追求してくれるのを「キレイゴト」と拒む気にはならなくなってる私たち。
昇華の具であるサッカー場面が一番お粗末だったりしたせいもあって、スポ根だのサッカーそのものだのは本当にどうでもよい映画に思えて、真のキモはエンドロール横で連発されるエピソード、いや、結末。ここへ来て完全正解映画へと突入しおえた感じでチャーミングに仁王立ち。かな。

にしても、バカにしちゃえるのは、サッカー後進国のわかってなさ迸り場面。ホーム/アウェーの概念をFIFAからもらってないかのようなユニフォームの着方が、試合での赤とオレンジの見分けづらさに直結。ゴールの九割は「ハイボールで、キーパーがちゃんと反応してて、手だけはボールと無縁」っていう、そればっかり。そして半端にカンフー。主審に暴行してもレッドカードにならない。女子の試合が興行的に全然成り立っちゃうあの満員ぶり、欧米でも見かけないよね。
1人対11人、のとこも、いったん奪われて奪い返す、とかもっといろいろ欲しい。
でも、決勝相手チームの主将・ヘーマンの顔とか、好き。

敵といえば、ボスのシャルマもいい感じに目立ってた。拷問~裸で町に放り出されるところ、浅黒い体がタンドリーチキンみたいだった。
(あ、インドビールのゴッドファーザーラガーっていうの私は飲んだ。ラベルのおじさんはオーソン・ウェルズ+伊藤博文。甘み+強み+ねちょみが、まるでインド映画みたくうるさい感じの、まあ平凡なビールだった。)

映画全体では、、、、冒頭10分ぐらいに始まったヴィジャイたちの下町キングダンスが最っ高だった。ぶっちゃけ、そのダンス場面だけが170分続いてくれたらいいと思ったぐらい。
それと前半の中頃の、歌をバックにラヴロマンス場面。これも30分ぐらいこれだけな映画でもイケた。


[大森の西友の上。西友で千円買い物すれば映画が安くなる西友割りっていうのがあるって知らなかった]