翼

リチャード・ジュエルの翼のレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.4
リチャードジュエルはしょうもない嘘も吐くし聖人君子ではないが、正義感が強く誇り高い。その二面性は誰もが持つわけでとても人間らしいが、悪いFBIにまんまと利用されるのがなんとも歯痒く彼らしい。そして世話焼き係の弁護士が「はいはい何やってんの解散かいさーーん!!」と蹴散らしてくれるのがなんとも頼もしい。

「第一発見者をFBIが操作している」
「有名になりたい下層白人が事件を捏造したケースはよくある」
どちらも事実だが、その言葉が報道された時に民衆が想像することは何だろうか。扇動ってマジで怖いな。そして社会的弱者へのバイアス。空気を読めない行き過ぎた正義感および自己顕示欲が生む軋轢。前職の問題行動(とも言えないが…)を綻びとして彼の迂闊さ、行き過ぎる素養が露見すると、それまで祭り上げられたヒーロー像との勝手なギャップで批判の的となっていくわけだが…。
なぁ〜んかリチャードジュエルの放つ言葉とか振りかざす正義感とか、マウント臭いというかやや癪に感じられる感じ、私はわかる。わかってしまう。私だけかな?
何がとも説明し難いしそれこそ「デブ白人」という記号に対する私自身の恥ずべき偏見なのかもしれないけど、それを狙ってやっているであろう絶妙なる怪演。この「なぁ〜んか引っかかる感じ」が過去のトラブルを招き、今回の騒動に一役買ってしまってる感は否めない。とても自然でありふれていて、だからこそ怖い。大衆が無意識で判別処理している情報とそれに潜む無自覚の悪意。これこそイーストウッド御大が描きたかった闇なんじゃないのか?レビューの筆をとり思考を整理しながら、自分自身の無自覚の悪意を指摘されたような気がした。
本当にこれを狙って撮られたのだとしたら、とてつもない作品だと思う。
翼