うっちー

リチャード・ジュエルのうっちーのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.0
 『運び屋』を観てからまだ一年も経っていないのに、もう新作が観れる幸せ。しかも最近とっても気になっているサム・ロックウェルと『アイ、トーニャ』の怪演が印象的だった、いつも何か食べているイメージのポール・ウォルター・ハウザーが、主演級の扱いというから、かなり気になっていた。
 アトランタ・オリンピックにちなんでのイベントが行われていた会場で起きた無差別爆破事件。その容疑者に仕立て上げられた警備員のリチャード(ハウザー)、そして彼の弁護を引き受けたワトソン(ロックウェル)、リチャードの母(キャシー・ベイツ)の闘いを描く。というと、なんだか終始シリアスで重いと思いきや、どこかゆったりムードが漂い、端端にユーモアが散りばめられ、また毎度のごとく音楽もよい。なんだかとっても温かい気持ちになる映画なのだ。

 そもそも、根拠なく、なぜ彼を容疑者に仕立て上げたのかが、謎。まあ、警察は大事な場面でとり逃したり、とちったりすると、無理やり犯人をでっちあげて手柄をつくるなんてことをたまにするみたいだけど、なんだか酷い。たまたま、ふいにした発言が印象に残ったりすると、目をつけられたりするのか。また、ろくに調べたり、裏を取らずに記事にして煽るマスコミの多いことよ。この悪循環が、彼やその母を追い詰めてゆく。冤罪事件の不条理やマスコミのいいかげんさとその罪などが露わになってゆく。

 しかし、もちろんその冤罪事件が大事なテーマなのだが、今作で印象に残ったのは、ワトソンとリチャードの、どこか友情にも似た絆というか、結びつき。以前いた職場で、弁護士と備品係として知り合っていた仲という設定は実話なのかわからないけど、たぶん歳もちがい、職種も全く違うふたりが、それぞれに自分の仕事へのこだわりや誇りをもち、それをさりげなくお互いに認め合う感じかよい。ちょっと乱暴者みたいな役が多いロックウェルが、今作では比較的まともで、口は悪いけど結構いい人、みたいな役柄で、とても良い。また、ハウザーのリチャードも、特別優秀なわけじゃないし、肥満体型だし、たぶん普通の保守的な庶民だけど、自分なりに仕事をまっとうして、国に尽くしたいと思っている青年、という、ハウザーの今までにはない役柄で、新鮮だった。また、彼と母親役のベイツとの息はぴったりで、ふたりが喧嘩したり、仲直りして抱き合ってるシーンはただただ微笑ましかった。かなりマザコンだけど。

 終盤に、FBIに呼ばれてワトソンと尋問に臨むシーンのリチャードの供述が素晴らしい。何かにつけて揚げ足を取ろうとする彼らに静かな怒りと失望をぶつけ、これ以上ないくらいの冷静さと強さで圧倒するリチャード。お母さんの会見のシーンと並び、出色のシーン。そこからラストのエピソード、タイトルバックへ流れるあたりが素晴らしく、温かい余韻が残る。イーストウッドはほんとに凄い。
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