やまモン

羊飼いと風船のやまモンのレビュー・感想・評価

羊飼いと風船(2019年製作の映画)
4.0
【伝統的な社会の危機】

春江水暖は中華エリアの変わりゆく風景を描いたものであったが、こちらはその周囲を取り囲むように存在する草原の変わりゆく風景を描いた作品である。

古来より変わらぬスタイルで生活してきたチベットの人々であったが、中共の支配の中で「文明」を押し付けられる形で、生活に変化が生じてきた。

それは春江水暖のような経済成長と呼べるものではなく、中共のシステムとルールの押し売りに過ぎないのであるが。

ともあれ、その影響は家庭のあり方や子供の育成、社会の存続についても影響をおよぼしている。

作中でも主要なテーマの一つと言える、出産と育児に関する認識の変化。

これには中共が推進してきた「一人っ子政策」の押し売りが影を落とす。

伝統的なコミュニティの価値観を重んずる夫は出産を望むが、一方で妻は堕胎を望んでいる。

確かに、日本においても同じ現象はかなり昔から見られるものではある。

しかし、これは良く考えると恐ろしいことである。

本来であれば、子供は社会の継承者であり、大切にされるべき存在である。
また、人口が多い方がその社会の力は強くなる訳であるから、子供は多い方が良い。

であるにも関わらず、人々は中共から刷り込まれた価値観によって、自らの手で、自らの社会を崩壊に導こうとしているわけである。

そのようなことに思いを馳せていると、コンドームを風船にして遊ぶ少年たちの美しい風景も、別のものに見えてきてしまう。

草原の美しい風景と、そこに暮らす人々の伝統と尊厳がこれ以上傷つけられないことを切に願う。