Tラモーン

花椒の味のTラモーンのレビュー・感想・評価

花椒の味(2019年製作の映画)
4.2
2022年映画館初め!

めちゃくちゃよかった…。
久しぶりに映画館でめちゃくちゃ泣いた…。

父親の葬儀を機に初めて出会った3人の異母姉妹。香港のユーシュー、台湾のルージー、重慶のルーグオ。すぐに打ち解けた3人は父とのそれぞれの思い出を語り合う。そんな父親リョンが香港で営んでいた火鍋店はまだ店舗の賃貸契約が残っており、従業員もいた。一度は店を売りに出そうとするユーシューだったが、父の残した店の看板のために店を継ぐことを決意する。

大枠で捉えたら『海街diary』にちょっとだけ似てるかも。


冒頭、お祭りで龍舞を担ぐ人々。そのうちの1人の男性が祭りの列から離れて笑顔でこちらに振り返り、手を振る。彼のとても優しそうな表情が印象的なオープニング。

母親も違えば、育った境遇も場所も違う3姉妹のキャラが立っていてとてもよかった。
最初の妻との間の長女ユーシューは香港の旅行代理店で働くOL。父親が自分と母親を捨てたことを許せず、後に父親が戻ってきても受け入れることができず溝を残したまま死別している。
2人目の妻との間の次女ルージーは台湾で暮らすビリヤード選手。母親は既に裕福な男性と再婚しているが、母親との関係が上手くいかず常に孤独を抱えている。
3人目の女性との子どもで三女のルーグオは重慶で暮らす奔放な女性。オレンジのベリーショートヘアに奇抜なファッションでインスタライブなんかをやっている。海外で再婚した母親に受け入れられず、祖母と2人暮らしをしている。

3人それぞれ父親や現在の家族との軋轢やすれ違いを抱えていた。
そして3人それぞれが疎遠だった父親の火鍋の味の秘密と、生前父親が自分たちに残していた思いに向き合っていくことで、家族との付き合い方や未来のことに前を向いていく素敵なストーリーだった。

3人バラバラの痛みを抱えていたけど、父親の死と店の立て直しという痛みで頭がいっぱいの間は、それぞれの痛みを忘れられたんだろうか。ルーグオの歯痛を花椒の刺激で忘れさせるシーンと、麻酔医のツボ押しのシーンが象徴的だった。

特に父親とのわだかまりが消せないままお別れしてしまった長女ユーシューの心の動きがとても丁寧だった。何故父親の生前素直になれなかったのか、何故キチンと会話をすることができなかったのか。婚約者の「日本料理"でいい"」「結婚"してもいい"」という言い方にはこだわるのに、何故父親とはちゃんと話し合ってこれなかったのか。

大人になってから知った父親の気持ち。
「一緒にいられなくってごめんな」
子どものころに気付けていたら、父親が戻ってきたときに気付けていたら。

彼女が今まで口に出すことができなかった素直な思いが溢れ出したラストシーン、涙が止まらなかった。まさかここでオープニングと繋がるとは…。


冷静に考えたらお父さんは3人の女性との間に子どもをもうけていて、とても立派な人とは言えないんだけど、お店の従業員の話なんか聞いちゃうと憎めないというか、本当に優しい人だったんだなぁ。自分か過ちを犯した人間だからって、過ちを犯した人間に優しくできるって凄いことだと思う。
「人は誰しも過ちを犯す。そしてそれを許してくれる人を待っている」

あのスッパリした終わり方が、みんなそれぞれの未来に目を向けたことを表現している気がして好感が持てた。


家族でも、と言うか家族だからこそ、大切で親しい関係だからこそ、伝えられるうちに、ちゃんと言葉で伝えてあげなきゃダメだよなぁ…としみじみ考えさせてくれる作品でした。

ぼくは自分自身が精神的に幼いので、息子を叱るときに感情的になってしまいがちで、後悔することがとても多い。叱ったあと、子どもがケロっと笑いながら寄ってきても気持ちの整理がつかなくて上手く接することができなかったりするんだけど…一時の怒りや悲しみの感情で素直になれないのはよくないよな。
「パパモウオコッテナイ?」って訊かれたら「怒ってないよ」ってちゃんと言葉で伝えてあげよう。
Tラモーン

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