やまモン

ブータン 山の教室のやまモンのレビュー・感想・評価

ブータン 山の教室(2019年製作の映画)
4.6
【ペムザムが可愛い】

ブータンを舞台とした作品であるが、勿論ブータン映画は初体験であった。

役者ではなく、実際に暮らしている一般人を使っているとのことで、ルナナ村の人々やその生活等、当然ではあるがリアリティーがあり、とても自然に作品の世界観に入り込むことができた。

主人公のウゲン青年は教師という職に就いているが、公務員という立場も、暮らしているブータンも面白くない。

彼は海があり暖かいオーストラリアを夢見ていて、そこでの暮らしの方がより幸福感を得られると考えている。

私自身もそうであったが、確かに若い時分には、現状に満足できなかったり、何処か別の場所で自由に生きたいという想いを強く持ったりするものではある。

人は誰しも、田舎よりも都会の方が優れていて、より幸福に生活することができると思い、一度は都会に憧れる。

しかし、時が経てば都会の幸福感は表面的なものに過ぎないということに気がつく。

都会は確かに物質的な充足感は与えてくれるが、人間から自然を奪ってしまうため、人間はやがて疲れてしまうのである。

対して、ルナナ村はどうかと言うと、こちらは吉幾三も真っ青になる位のド田舎である。

電気も不安定で、物質的な豊かさは皆無、食も貧しく、燃料はヤクの糞という世界である。

若者であれば誰しもが出ていきたくなるような場所であるが、私はシドニーよりもルナナで生活したい。

確かに貧しいが、素朴に自然と寄り添い生きているルナナの人々には、都市で生活する人々にはない、美しさを感じる。

それは素直さや、しなやかな強さを伴っていて、私たちが雄大な自然を目の前にした時の感情に近いものがある。

それは畏怖と呼んでもよいものかもしれない。

また、学級委員のペムザムがとても可愛くて、笑顔が素敵過ぎて、映画が終わって彼女とお別れするのがとても悲しいことのようにすら思えてしまった。

彼女は現地人なのであろうが、あの神々しい笑顔を大人になっても失わないで欲しいと切に願う。

現代社会においては、沢山の物質と情報そして共通の価値観で世界が覆われようとしている。

一方で、ローカルなものは遅れて劣ったものと見なされている。

しかし、グローバル的なものが決して私たちを幸福にはしないということに、そろそろ皆気が付いているのではないか。確かにそれは無意識なものであるかもしれないが。

ウゲン青年は都会に行ってしまうが、ルナナ村を経験したことによって、実は本当の幸福が何か、ということに気が付いている。

ラストのヤクの歌はそれを象徴している。

どう考えても、シドニーの物質にまみれた世界よりもペムザムも笑顔の方が良いに決まっているのである。

そして、私自身もいい加減、都会には疲れてしまっているようだ。