ヨーク

カーブルの孤児院のヨークのレビュー・感想・評価

カーブルの孤児院(2019年製作の映画)
3.8
俺は映画関係なく中央アジア好きだし、映画もまぁ好きなので中央アジア今昔映画祭とか銘打たれた特集を組まれたら好きなもの+好きなものになるのだから行かざるを得なくなってしまう。スケージュール的に上映される9本の内3本しか観れそうにないのが悔しいがまぁそこは仕方ないか。またこういう機会を設けてくれと言う他ない。
で、本作『カーブルの孤児院』なのだが面白い映画でしたよ。笑っていいのかシリアスなのかどう捉えればいいんだろうというシーンが結構あったが、そこは多分どっちでもいいしそのどちらの受け取り方をされてもいいように作られた映画だろうとは思う。
お話は1989年のアフガニスタンが舞台で、ブレジネフがアフガン侵攻を始めたものの結局治めきることができないままソ連は撤退しムジャヒディンがソ連が撤退した空白を埋めるための権力闘争で軍閥化していくことになる時期である。それは現在のアフガニスタンの諸問題にも直結する出来事ではあるし本作のテーマの一つではあると思うのだが、映画のストーリーの主軸は別のところにある。
あらすじはこうだ、映画大好き、特にインド映画が大好きでおそらくストリートチルドレンであろう主人公の少年は映画館の前でダフ屋をやって小遣い稼ぎとかしていたのだがある日とっ捕まって孤児院送りにされてしまう。最初はその孤児院に馴染めなかったものの住めば都じゃないが、しばらくすると仲のいい友達もできたし教師も悪い人じゃないしでまんざらでもなくなってしまう。しかし上記したようにソ連の撤退に伴い時代が大きく動き始めて…というものだ。
いわゆるジュブナイルもの的な友情や淡い恋なんかを上記した主人公が大好きなインド映画的な演出でもって描かれるのが本作の特徴で、もっと端的に言えば随所に歌と踊りのミュージカルパートが挿入されるのだが、予算の関係とかがあったりするのかそのシーンの繋ぎとかがまぁチープなわけですよ。ある程度意図したチープさもあるだろうがそのミュージカルシーンは本場ボリウッドのような圧倒される映像、というようなものではない。ネタバレになるので詳しくは書かないがラストのシーンもこっちは往年の香港カンフー映画のようにやや投げやりなやっつけ感のある終わり方にもなっている。
では本作が単純に娯楽的な映像の水準が低いだけのしょぼい作品なのかというと全然そうではないんですよね。最初に笑うところなのかシリアスなところなのか判断しかねる部分が多いと書いたが、上記したようなやや唐突感があって安っぽいミュージカルシーンというのは全部主人公の感情が昂ったときに現れるんですよ。まぁそれはミュージカル映画の基本文法みたいなもんだけどさ。しかしそこに主人公が映画好き(特にインド映画)という設定も踏まえるならば、それはその少年が現実では体現することのできない夢想を映画というの夢の中で具現化させているという表現なのだと言えるだろう。だから本作でのミュージカルシーンというのは低予算丸出しなB級C級な装いを纏いながらも孤児の貧民少年がその現実から自由になるために切望する夢のような世界を描いているものでもあると思う。
そう考えると一気にシリアスで切実で物悲しい映画になる。80年代末期のアフガニスタンの少年が「こうなればいいのに」と思ったが現実はそうはならなかったというお話になるのだから。
そういう気持ちが仮託された映画なんじゃないかなと思うよ。往年のインド映画のノリを基調にしながら、実際俺は本作を観ながら結構アハハと笑ってしまったんだけど、それとは裏腹にあるシリアスでシビアな現実もきちんと描かれてるんですよね。いい映画だ。
中々見ごたえのある映画でしたよ。まぁでもそれはそれとしてラストシーンの締め方は結構なやっつけ感があると思うけどな!
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