しゃび

ドロステのはてで僕らのしゃびのレビュー・感想・評価

ドロステのはてで僕ら(2019年製作の映画)
3.5
長編映画としては短尺で、しかもアマプラでも観られるので、ぜひ1度観てみてほしい。とても興味深い映画だった。


劇団による劇団のための映画。

いや、劇団が映画を作った。
というより、劇団が映画の枠組みを使って作劇をした。
というのが正しい表現だと思う。



劇と映画はいろんな意味で違う。



当然のことながら、演劇はライブで、映画は収録だ。

映画におけるライブは、作品の順序とは関係なく起こる。また撮影現場という現実と、映画内の出来事が同時並行であるという点でも違う。



もう一つの大きな違いのは観客との距離だ。

映画はカメラの位置、フォーカスによって観客との距離を自由に変えることができる。アップで撮られているシーンは、日常ではあり得ないくらいの近距離で、被写体を覗いているのと同じだ。

一方で、演劇は客席から舞台という一定の距離が保たれている。



また、映画は現場を変えられる。
ロケであれ、セットであれ、ほとんどの映画は複数の現場で撮影されている。

演劇は舞台を複数持つことは、基本的にできない。同じ場所で、複数の現場があるかのように表現をする。



などなど。



このような、多くの違いを認識しながら、
映画の枠組みで演劇を作るという試みをしているのが面白い。

一般的な映画と、本作の大きな違いの一つが、芝居だ。

演劇ほどではないが、常に声を張って会話している。自然さを求められる映画には似つかわしくない、オンとオンのぶつかり合いに最初、違和感を感じる。

しかし、すぐに違和感は解消され、ワクワクした気持ちに変わる。
演劇的な芝居を不自然に見せないための仕掛けがされているからだ。



一つは、ロケーションを限定していること。

本作には、ほぼ3つのロケーションしか出てこない(2度出てくる床屋を除いて)

・カフェ
・店長の部屋
・カフェと店長の部屋を繋ぐ階段

多くの映画のように、たくさんの場面設定をしていたら、さすがに違和感を感じただろう。


もう一つは撮影放送。
スマホ+音声機材で、前編ワンカットに見えるように撮影されている。

会話シーンで「切り返し」が使われたなら、途端にオーバーな芝居に見えたはずただ。


このように、ライブ的な仕掛けをほどこすことで、映画と喧嘩せずに演劇映画ならぬ映画演劇に仕上げている。


長引くコロナ騒動で、以前のようにリアルな場でエンタメができなくなってる。
本作のように、リアルな場を使わずにリアルなエンタメにチャレンジしている作品があることに、心が躍った。



最後に強いて言うならば、
「時間軸をいじる系映画」としては、ボクの好みのパターンではなかった。

トリックの話に終始するストーリーはあまり好きではない。
例えば「アバウトタイム」のように、あくまで設定は設定で、人間の機微が描かれている作品が好きだ。


とはいえ、
十分に面白いエンタメ作品に仕上がっているので、冒頭でも述べたけどぜひ観てみてほしい。
しゃび

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