幽斎

トラフィッカー 運び屋の女の幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
アイスランド映画と言えば、今を時めくMargot Robbie主演のレビュー済「死の谷間」。このミス選出のスリラー「湿地」。最近見て面白かった「隣の影」など無くはない。カテゴライズすれば独特のドライな視点が特長で、他の北欧モノに無いテイストが味わえる。北海道よりも広大な国土だが、人口は35万人しか居ない。捕鯨国で日本と関わりは深くEUに正式に加盟して無い、世界でも珍しい軍隊が居ない国。それだけ外交が巧で、世界最強のパスポートと言われる。のむコレ3シネマート心斎橋にて鑑賞。

幸福度調査で常にトップに居るアイスランドだが、映画を観る限り人間不信を冷めた視点で、とても幸せには見えない。邪悪と陰険を際立たせる作風は、気候通り寒々とした雰囲気に包まれてる。国民性なのか個々の独立心が高く、他人への共感性が低く見えてしまう。軍事的にチョーク・ポイントな地勢で過去に侵略を繰り返され、それが人間不信に陥ってるとすれば、こんな悲劇も無い。

登場人物の悪辣さは中々で、ここまで非道なキャラクターはハリウッドに居ないかも。理知的な登場人物も少なく、始めから決められたゴールに向かって突き進むストーリーは、他の北欧モノとは一線を画す展開が用意されてる。しかも車の様にインター・チェンジが有るでも無く、トロッコ列車の様な一本道で、途中で積み荷をどんどん落として、着いた時には空っぽ。それを俯瞰的に見つめる視線に寒くも無いのに身震いする。

製作のBaltasar Kormákurは「エベレスト3D」で見事な偶像劇を描いてハリウッドに新鮮な驚きを与えた才人監督。本作では期待の新人に監督と脚本を任せ、母国アイスランドの荒涼な風景を如何なく取り入れ、独特な張り詰めた空気感を見事にプロデュース。新人監督の冷徹な眼差しは「これがアイスランドか」と思わせるに十分なテイスト。映像的センスも良く、今後が楽しみ。主演のAnna Próchniakはポーランドを代表する国際派女優で「夜明けの祈り」の演技は鮮烈だった。兄役のGísli Orn Gartharssonは、本作で母国のアカデミー主演男優賞に輝いた。追っ手の女刑事はユーゴスラヴィア出身でレビュー済「ハウス・ジャック・ビルト」にも出演したMarijana Jankovic。作品は極めて小規模だが、優れたキャストに恵まれてる。

原題「VARGUR」は英語で言えば「VULTURES」禿鷹(ハゲタカ)、彼らが迎えるラストを清々しい、と思うのか、後味が悪い、と思うのかは貴方次第。物語が淡々と進んで行く事でリアリティが増し、クライムの緩急も良い按配で、登場人物を最小限に絞る事で、キャラ設定も丁寧に説明され、91分と程良いランニング・タイム。過度な期待をしなければ普通に面白い。結末を見て心根の優しい方なら胃液が出るかも(笑)。脚本に穴はしっかり空いてるが、それがダメージに為らない演出力を素直に褒めたい。私が劇場で観た時は、観客は私1人だった(笑)。スリラー初心者には程良い面白さと密かに推奨したい。

ソフィアの最後の行動は映像的に論理的に説明できる、是非自力で考えて見て欲しい。
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