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ようこそ映画音響の世界へのろのレビュー・感想・評価

ようこそ映画音響の世界へ(2019年製作の映画)
5.0

動物の声や逆再生を多用した効果音、シアターの背後から観客を包み込む重低音・・・今ではすっかり私たちに溶け込んでいるものを、それが当たり前ではなかった時代から遡ってみていく。
その歴史には常に誰かがいる。誰かの努力と挑戦がある。
ドルビーアトモスも5.1chサラウンドも誰かが踏み出した未知への一歩だった。

「地獄の黙示録」の冒頭が大好きだ。
スローモーションで映し出されるジャングル。ドアーズのジ・エンドが演出する気怠さ、巻き上げられる砂塵。背後からゆっくりと迫るヘリコプターの音。
その音は時計回りに観客を包み込み、映像とリンクすることで、私たちは戦場にいるような感覚になる。
音は観客の想像力を刺激し、新たな体験へ導いてくれる。
今まで音に注目して映画を観ることはあまりなかったけれど、サイレントとトーキー、音響の入る前と後の比較を見てみると、その音の役割にとても驚いた。そして音にこだわり続けた技術者たちの冒険にひたすら胸が熱くなった。

ティッピ・ヘドレンが鳥に襲われる前触れを’沈黙’で表現したヒッチコック。
現実の音で満たしたいという想いから1年かけて音を集めた「スターウォーズ」。
高架上を走る電車の音を、頭のきしみに見立てた「ゴッドファーザー」。
音響にかける期間が7週間だった当時、4ヶ月かけて作られたバーバラ・ストライサンドの「スター誕生」。

ガラスを踏む音をスタジオで再現するクリエイター。
スタンドマイクの間を走り抜けながら、デモ隊の声を吹き込むエキストラ。
シーンごとにどの音をメインにするか、各部門で作られた音をまとめ上げる指揮者。
動きに息遣いが加わり映画になる。まさにその瞬間を目の当たりにした。
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