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すばらしき世界のnaokiのネタバレレビュー・内容・結末

すばらしき世界(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

元ヤクザが社会復帰を目指すストーリー、というと既視感のあるように聞こえるが、現代のヤクザのリアル、テレビのリアル、生活のリアルが詰め込まれた、そしてユーモアと優しさに溢れた、今まで見たことのないような話だった。

主人公の三上の人柄を描くのが上手いよなあ。こんな人、観ているこっちはみんな、彼のことを応援したくなってしまうに決まっている。
演じているのは役所広司。本当にハマり役だったのでは、、個人的には今まで役所広司出演映画で1番好きだ。

また、三上に密着取材を行う制作会社のディレクター、津乃田も最高。映画観てから2週間くらい経ったけど、もはや仲野太賀の顔を見ただけでうるっとしてしまう。言わずもがな、背中を流すシーンや、仕事が決まった夜のシーンは最高だよね。

いっぱい書きたいけど、とにかく良いのは、観ているこっちの気持ちが揺さぶられること。クライマックスでは、「お願いだからもう手は出さないでくれ」という気持ちと、「こんな奴らはボッコボコにしてこそ三上だろ、いけいけ」という気持ちが自分の中に共存してしまっていたんだよなあ。こんな揺さぶられ方はあんまりしたことない。この辺りの演出の工夫も見事。いやー見事。

三上が「困っている人を見ても助けないような人間になるなら死んだ方がましだ」というような発言をするんだけど、ここに全て詰まっているね。
結局、自分を殺して、社会に順応した途端、それはつまり死んだ方がましな人間であり、その言葉通りに死んでいくという美しさ。そして、その人柄に惹かれて集まった人々が最後、その死を前に呆然と立ち尽くす中で、空へのカメラワークからのタイトル。これはちょっとすごすぎる。個人的に邦画史上に残る美しい終わり方。

早々に今年度最高、どころか過去を振り返っても、ここまでの観賞後の複雑な感情を味わったことはない、大傑作にめぐり逢えたなあ。
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