みーちゃん

すばらしき世界のみーちゃんのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.1
感情を意図的に煽るような演出がないのが良い。だから、予想より意外にあっさりした描き方だった。その分、観客の受けとめ方の幅が広がり、全体のバランスがとても良かった。

始終、頭から離れなかったのは、すべてが紙一重だということ。だから、私は、彼の状況が悪い時よりも、むしろ良い時、良いことが続いている時の方が、薄氷の上を歩いているようで、怖くて仕方なかった。

そんな三上のことを、とても他人事とは思えない。色んな意味で、いつでも自分の身に起こり得る。私自身も、踏み外さないように、社会の中で細心の注意を払いながら取り繕って生きているだけかもしれない、とまで感じてしまった。

こう感じる過程で、身分帳の中にある"客観的な事実" "客観的な自分"を挿入したのは見事な演出だった。それをどんな想いで自ら一言一句書き写したのだろう…。と想像したことも、この気持ちに大きく作用していると思う。

そんな現世の無情と厳しさを、津乃田はじめ全ての登場人物が、絶妙な距離感と関係性で、希望をほんの少しだけ、でも確実に与えてくれた。