ベイビー

プラットフォームのベイビーのネタバレレビュー・内容・結末

プラットフォーム(2019年製作の映画)
2.2

このレビューはネタバレを含みます

昔、「料理の鉄人」で三代目和の鉄人の森本正治さんとアメリカのシェフがアメリカのキッチンスタジアムで対決した時のことですが、料理中アメリカのシェフがしきりに客を煽り会場を盛り上げていました。森本さんにとってはアウェーでの対戦です。

見ているこっちとしては、客を煽るシェフに「料理に集中しろよ」と少し眉をひそめてしまいますが、対する森本さんは鉄人らしく料理を作ることに集中し、相手の挑発を気にせず黙々と手を動かしています。

先に料理を完成させたのはアメリカのシェフでした。そのシェフは森本さんにプレッシャーを与えようとしたのか、それとも勝利を引き寄せようとしたのか分かりませんが、突然調理台の上にのぼり、そのまま仁王立ちになって観客を煽り始めました。

僕は見ていて不快に感じました。土足で食材を扱う調理台の上に立っているのです。本当に意味不明です。それを見た森本さんも顔色が変わり、繊細に手を動かしながらも、体全体から怒りが込み上がっいるのを感じとれました。

その後、調理後のインタビューで森本さんは「土足でまな板の上に立つ人間を私はシェフだと認めない」と苦言を呈していましたまが、そのシェフはおろか、そこの会場に居るほとんどの人が言葉の真意を感じとれなかったのか、一瞬会場が静まりかえっていました…

長い余談になってしまいましたが、今作の料理の扱い方、特に料理の上を歩いている姿を見ていると、先に触れた話同様、僕の中にある価値観とこの作品の感性とでは、何か根本的なズレが生じているのだと実感してしまいます。そのズレが積み重なって嫌悪となり、そんな理由で僕は1㎜も作品に共感できませんでした。

やたらと不快。とにかく嫌い。

これは何かの宗教になぞらえているのでしょうか? それが分かれば楽しめたのでしょうか?

この作品からの問いかけが何も伝わらなかったので、結局何が言いたかったのか全く見いだせませんでした。最初は「CUBE」を想起させる新感覚なソリッドシチュエーションスリラーかと思って観ていたのですが、いつまでたってもその不条理に仕掛けられた謎の行方が分からず、終盤になっても法則や明確な解決の糸口が分からないままで、結局腑に落ちる結末が用意されていたわけでもなく、モヤモヤしたまま話が終わってしまいました。

それに何よりも人間の描き方が酷い。そしてあの施設の存在理由も意味不明。結局何がしたいのですか? シナリオ(設定)に緻密さもなければルールも曖昧です。それはこの建物の構造と同じで、物語にあるべき柱がどこにも見つかりません。

まずあそこに居る料理人たちの立ち位置もよく分からない。なぜ彼らはあれほどまで厳格に仕事ができるのでしょうか? まるで三つ星レストランで働いているかのようにプライドだけは高そうに料理を作っていますが、その料理にクオリティや労力がそこまで求められていないことに気づかないのでしょうか?

それからあの階層の設定も安直過ぎやしませんか? この建物の階層の比喩は、どう考えても貧富や階級のヒエラルキーを表したものではありません。ただ単にくじ引きみたいに根拠もなく(根拠はあったかも知れませんが)食事の順番を決めているだけのことです。それなのに上層階に居るからと言って横柄な態度をとり、食べものをあんな下品に食い散らす理由はなんなのでしょう?

それでもってあれっぽっちの料理を700人くらいで分けろっていう算段もよく分かりませんし、もし仮にその700人が地球の人口の70億人を模したのだとして、あのテーブルの料理の量も地球に限りある食物の量だという説教じみた話だとしたら、それこそ設定に根拠もなく的外れな話だと思います。また、それを誰に向けた見せつけなのかも分かりませんし、そもそもいくら飢えてるからって人は人を食べやしないと思うのです…

と、このような理由から、僕とこの作品との相性はよくないと感じました。僕も育ちが良い方ではありませんが、ちょっとこの作品の感覚にはついていけなかったです。
ベイビー

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