ゼロ

ミッドナイトスワンのゼロのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
5.0
最後の冬、母になりたいと思った。

率直に草彅剛さんの演技力に脱帽しました。本作品は、トランスジェンダーを題材にした作品で、草彅剛さん演じる凪沙は、体は男、心は女の役柄です。

物語としては、凪沙は、ニューハーフショークラブ「スイートピー」に勤務していた。ある時親から電話があり、親戚の娘・中学生の一果を一時的に預かることになった。一果は、親からネグレクトされ、心を閉ざしていたが、バレエと出会い、夢中になっていくのだった…というもの。

正直、草彅剛さんの姿は、周りの人に比べて、男性感が強くあり、序盤は違和感があった。もっと美しくお化粧もできそうなのにな…と思っていたが、物語が進むにつれて、その違和感はなくなっていく。なぜかといえば、女性らしい手の動きやしぐさがある。特に一果を、自分の職場に連れてきて、一果のバレーの姿を見る目は、優しい母親の目であった。

凪沙は、一果のために献身となり、ご飯を作ったり、バレーに興味を持ったりする姿は、娘を持つ母親の姿だった。

そして、一果のために夜の仕事を辞め、転職活動を行い、面接官受けするために、男性の姿になった時に、違和感が生まれた。見慣れている短髪の草彅剛さんの姿に違和感があり、女性の姿ができない凪沙を見て、心がざわっとした。それくらいに草彅剛さんは、凪沙として演じ、キャラクターを作り上げていた。

分かりやすい部分でLGBTの凪沙があるが、もう一人の主人公である一果を演じる服部樹咲さんも存在感があった。序盤は、心を閉ざしていた女の子であったが、凪沙と出会い、バレーで桑田りんに出会い、心を取り戻していき、最後には立派な女性へと成長していた。一人の女の子が変わる姿を見事、フィルムに残しており、良かったし、何よりバレーの演技が圧巻。

最後に完膚なきまでにハッピーエンドで終われば美しかったのかもしれないが、白鳥が湖に戻っていくような終わり方をしている。後半で凪沙が、海外で手術を受けるが、失敗し、介護が必要になってしまう。目も朦朧とし、一人で生きていくことができない。その時に、本当の母親の元に帰ってしまった一果と再会し、最後の冬を経験する。

海が見たいという凪沙は、海辺に連れて行ってもらうが言動が滅茶苦茶で、体も満足に動かすことはできなかった。この辺の演技が圧巻で、言葉をなくしていた。凪沙は、女の子として生きていたかったが、世界はそれを許してくれなかった。その心情を丁寧に演出し、命尽きる描写は、とても綺麗で、残酷だった。

主役の二人の演技が見事で、圧巻される作品でした。細かいことをいえば、ツッコミどころはある。まず、一果の友達であった桑田りんが、結婚式でバレーを踊り、綺麗に屋上から自殺をしたが、その後、周りの人間の描写がない。次に、一果の母親である桜田早織が、ネグレクトをした割には、描写もなく、変わっている。凪沙の姿を見て、拒否反応を起こすも、時間が経てば、凪沙の元へと向かわせている。そして、バレーの先生である片平実花は、なぜ一果に惚れこんでいたのか。

時間の関係もあり、描写が足りない部分や展開に違和感を感じるキャラクターもいたが、それを忘れるくらい凪沙と一果のキャラクターに存在感があり、ドラマがあった。

上映時間が124分と長い作品ではあるが、時間を忘れるくらいに、心を奪われ、考えさせられる作品だった。エンタメではない作品だったが、邦画の底力を魅せつけられた作品でした。
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