Masato

ミッドナイトスワンのMasatoのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.5

孤独と孤独が寄り添うとき

草彅剛がトランスジェンダーの役を演じるとして話題となった作品。虐待されていた親戚の中学生を引き取ったことから、彼女の人生が変わりだす物語。

孤独と孤独、弱者と弱者が互いに居場所を見つけて寄り添う話は、個人的に孤独を感じている時間が人生で長かったので、とても共感できてとてつもなく感動してしまうので大好きだ。本作以外で言えば、怪獣と声を出せない女性の恋を描いた「シェイプオブウォーター」、孤独な女流作家とゲイの男性の交流を描いた「ある女流作家の罪と罰」、ゲイのカップルがダウン症の子どもを育てようとする「チョコレートドーナツ」などがある。どれも私のベストの上位に入る傑作だが、本作もその類の中に入る素晴らしい出来だった。

本作はトランスジェンダーがいかに現代社会で生きづらいのかを様々な人物を織り交ぜながら、ネオネアリズモ的視点で描き出している。なので、生々しく現実的な生活を描いている。お金を稼ごうとするが、ありのままで社会へ出れば、企業への就職すらも難しく、水商売で稼ぐか自分の性別を偽って仕事をするしかない。常に監視されているような状態で抑圧されながら生きていくしかない。時代が遅れている田舎の家族には理解されもしないから常に一人でいるしかない。

日本ではつい最近、足立区の区議員が「LGBTの法律を作れば、この区は滅びる」と、なんとも知能指数の低い発言をしていたが、まだそんな議員が東京にいる。それ以前に、女性と男性で雇用と賃金の格差が未だに酷い国でもある。美しい国だの言われているが、その実態は悲惨で、声なきマイノリティが知らず知らずに苦しい思いを強いられている。これは「万引き家族」とも共通しており、こうした実態を映画として描くことに意義がある。

ただし、本作はただトランスジェンダーの孤独や苦しさを描くだけではない。パートナーとなる孤独な中学生の一果の存在が物語に活きてくる。彼女は母親のネグレクトを受けて心の中に闇を抱えている。その上思春期だから、不安定になり自傷行為まで。誰もが信用できないような心理状態だったと思う。その子と関わりあうことで、前述の通り、「孤独」といった点で互いに引き寄せられ、身を寄り添うことになるとき、境遇や立場も違えど、「孤独」や「社会に拒絶される」といった感覚は同じものなのだと感じさせるように描いていると私は感じた。そうすることで、苦しさや孤独というテーマをより感じさせるような作りになっている。そこが良かった。
それは、一果だけでなく、その友達の裕福な家庭で暮らしている桑田りんも同じであり、それぞれが互いの弱さや苦しみなどを共通項として描いている。

そして、本作はありふれた邦画作品のように、多くは語ろうとしない。中学生の一果はキャラクターのせいもあってか、ほとんど喋らない。海外映画と同じく、演者の演技力や映像表現が大切となってくるが、どちらも素晴らしかった。草彅剛と新人の服部樹咲の演技力が凄まじく、本年度の日本アカデミー賞の主要部門獲得は確実だろう。

兎にも角にも今作られるべき作品であり、今見られるべき作品であり、単なる感動ドラマとして済ましてはいけない社会派である。本作で社会がほんの少しでも変わることを願う。

余談
自分のセクシュアリティについて
私は子どもの頃から女の子と遊ぶ時間が多く、中学生のときはボーイズグループのファンだったり、今では女性性に目覚めてきたりして、男性よりも女性のファッションを見ている時間は圧倒的に多い。ファッションを見てて、女性になりたいと思うこともある。本作の主人公のような何故男子の服を着ているの?という疑問からではなく、着たい!という憧れみたいなものからきている。
自分は未だに異性愛主義の世の中が嫌いで、自分の中ではパンセクシャル(全性愛)でありたいと思うが、男性らしくないとおかしいという固定概念が今になってもはずれることが難しく、そこにはやはり近代で固定されてきたものが自分の中に植え付いていて離れてないのが苦しい。社会のせいにする気はないけど、もっと社会がカラフルにあれば、もっと自分らしさを表現できるのにと思ってしまう。
Masato

Masato