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藁にもすがる獣たちのumisodachiのレビュー・感想・評価

藁にもすがる獣たち(2018年製作の映画)
3.9



曽根圭介の小説を韓国で映画化。監督は本作が長編映画デビューとなるキム・ヨンフン。

飲食業に失敗してバイト暮らしのジュンマンは、勤め先でヴィトンのボストンバッグに入った大金を発見する。空港職員のテヨンは、失踪した恋人の借金のせいで崖っぷちの状況。キャバクラで働くミランは、自分が追った借金のために夫から日々暴力を受けていた。互いに何の関係もないはずの彼らの人生が、ボストンバッグの中の大金によって繋がっていく……。

人生の崖っぷちにいる人間たちが、大金に翻弄される姿を描いたオフビートな犯罪映画。登場人物は基本的に全員ちょっとアホで、やることなすことが裏目に出まくる。ダメすぎるけれど憎めないキャラが多い中で、何人かが平然と「おいおいちょっと待てよ」という行動を取るので、物語はどんどん凄惨な方向へと進んでいく。

全体はいくつかの章に分かれていて、各キャラクターの動きをリズミカルに追っていくスタイル。タランティーノっぽい構成とちょっとしたユーモアで非常に見やすい。「チョン・ウソンはハンサム」というネタを前提にしたセリフで笑わせたと思ったら、突然の残酷描写で驚かせたり。起きている出来事の酷さと比例しない能天気な空気がユニークで、最後まで一気に持っていかれる面白さだった。

ストーリーテリングにはある仕掛けがあるものの、その種明かしはそこまで重視されていない。だから、前半で全体の構造はわかってしまう人がほとんどだと思う。その代わり、ちょうどそのタイミングで強烈なキャラクターが登場するので、物語のスピード感が一気に上がる。絡み合う登場人物たちのドラマはどう展開するのか?大金は誰の手に渡るのか?ゲスでアホな愚か者たちの悪あがきから、最後まで目が離せない。

本作の中心にあるのは「金」だが、その意味はキャラクターによってバラバラだ。その金がなくてもそのまま生きていける人もいれば、その金がなければ死んでしまう人もいる。ただ、共通しているのは「その金さえあれば、とりあえずの問題は解決する」ということ。映画に出てくるキャラは皆どん底にいるので見失いそうになるが、仮に日々の生活に特に問題を抱えていない人だって、大金を目の前にしたら狼狽して「どうしよう?」と考える場合がほとんどではないだろうか?結果的に警察に届けるにしても、ほんの一瞬「この金があれば」と想像するのが人間ってもんだろう(え、違う?)。

全員をちょっとずつアホに描いた見事な演出と芝居、ラッキーストライクなどの伏線を気持ち良く回収したテンポの良い脚本、アーティスティックでかっこいいエンドクレジット(アーティスティックすぎて誰が誰だかわからなかったが)、いい感じでベース音が効いた音楽など、さすが韓国映画と言わざるを得ないクオリティのエンタメ作品。損はしないよ!

あー。チョン・ウソン大好き。






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