うっちー

エルヴィスのうっちーのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
4.1
 ギラギラしたもみあげのスター、テレ東の午後のロードショーで観た日活の裕次郎映画のようなアイドル映画(『ブルーハワイ』とか)、震えるような独特な歌い方など、アラフィフの洋楽好きなら一応持っているエルヴィス知識。しかし、そのキャリアの一つ一つが、彼の生い立ちやルーツとなるような体験からどう結びつき、またどう捻れていったのかという作品。極めて派手派手しくフルスピード、画面も足りないから分割モニターまで使って資料映像をちらつかせるという多動症的な手法だけれど、不思議と嫌悪感なく観ることができた。

 まず、なんと言ってもエルヴィスの育った黒人街の描写が素晴らしい。ゴスペル、ブルース、卑猥なダンス、少年エルヴィスでなくとも脳天をガツンとやられるだろう。そして悪名高いマネージャー、パーカー大佐が初めて彼を見出すシーンのライヴシーンの興奮! ブルっときた。また、その後のいくつかのライヴシーンも、パフォーマンス含めてよい。これは本物とは違うタイプの、だけどやはりスーパーアイドル的な素養が揃いも揃った主演、オースティン・バトラーの功績だろう。わざとらしい物真似ではなく、自身の美しさや華奢さをいかした表情の作り方や指先や足先の動かし方などで、何とも艶めかしいエルヴィス像を作り上げている。騒いでいないシーンでも至極自然な演技で無理なく引き込まれてしまう。その巧みさとチャームには感心した。

 エルヴィス楽曲をサンプリングしたヒップホップを堂々と50年代(かな?)の街角に流す確信犯的音楽使いも、エルヴィスは今生きていたらB ボーイというサインとして素直に楽しめた。B.B.キングとマブダチだったかも、一緒にリトル・リチャードと邂逅したかも、というファンタジーも、ギリギリ楽しめた💦

 しかし、キャリアを思うように描ききれず、檻に押し込められたような晩年は辛かった。また、ビリー・ホリデー映画の際も感じたアメリカという国家の暴力的な保守性や、1人でステージに立つパフォーマーならではの苦悩と苦しみが身を滅ぼす恐怖にも驚きや悲しみを感じた。

 とにかく力作。あまり期待してなかったから余計に食らった。ありがとうございます。
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