翼

アンテベラムの翼のネタバレレビュー・内容・結末

アンテベラム(2020年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

時代設定(と敢えて表現する)に合わない登場人物たちの反応や言動の違和感。主役であるはずのエデンの反骨と隷属の矛盾の違和感。とにかく作品全体に横たわる違和感が、一つの真実によって全て紐解かれる。理解してからもう一度見直すと全てに辻褄が合う唸らせられる仕掛け。凄いわ。
一介の奴隷(にしか見えない)エデンのことを何故か新入りは知っていて、「あなたが唯一の希望なの」と縋る。にも関わらずエデンは「耐えて」と突き放し、敵なのか味方なのか立場が見えない。初見ではこの違和感が何なのかさっぱりわからないが、二度目で全て合点がいく。言葉選びも巧みで、事情を把握していない新入りたちは核心をつくワードこそ出さないがその態度や反応は完全に現代人のそれ。時代に合わないその態度こそが作品全体に絡みつく違和感の正体だったのだ。
メメントを初めて観た直後に見直したことを思い出した。

本作のメッセージは、南北戦争時代の差別は過去のものではないということ。まるで奴隷制と変わらないくらい現代の蔑視は黒人たちの魂を蹂躙している。それはかくも自然に日常に紛れていて、口を慎めと焼印を押されることと、レストランで端の席を案内されることは、本質的には同じこと。彼らは現代も日常的に差別に晒されている。「権限」を用いて豹変した白人男性よろしく「蔑視は本能的で心の中では誰しも彼のように激しく罵りたい衝動があるのでは」と想像してしまうと、彼らが如何に畏怖と闘いながら生きているかを想像できる。
それは偲びない恐怖だ。
翼