ぬ

アンテベラムのぬのレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
4.2
ホラーやスリラーの手法を用いて社会問題を描く作品が好きなので、かなり好きでした。

※直接内容には触れないけど、鑑賞前に予告やレビューをみると映画のインパクトが半減するタイプの作品だと思う。

黒人差別への反対運動の流れで南軍の将軍や兵士の銅像が撤去されるということがあり、賛否両論起きていたが、それに対して私が「偉人として」彼らの銅像を建てたままにすることに反対し、撤去することに賛成する理由が、まさにこの映画で描かれていて、すっと腑に落ちた。
昔と今は繋がっているし、今とこれからも繋がっている。

現代社会で社会学者として活躍する主人公の世界と、南北戦争時代の世界が、どのように繋がるのだろう?と思っていたのだが、その繋がり方が予想外でインパクトあった。

字幕には出てこなかったが、ヴェロニカが「インターセクショナリティ」というワードを使っていたこともあり、インターセクショナリティを意識した作品だと感じる。
だからこそ単に「同性同士だから」という一点でわかりあえるわけでもないし、性別が違っても連帯することができたりする。

映画のタイトル「アンテベラム」はラテン語で「戦前」(特にアメリカでは「南北戦争前の時代を指す)という意味らしく、割と分かりやすくメッセージ性を出してくれてる理解しやすい作品だと思う。
伝えたいメッセージを明確に強く感じ、それを伝えるために考えられた演出であることもわかって、真面目に作られた映画であることがわかる。

あと、最近『オオカミの家』という映画をみて、その元ネタである虐待が横行していたカルト団体の閉ざされた施設「コロニア・ディグニダ」のドキュメンタリーをnetflixで観ているのですが、拉致し、序列をつけ、相互監視させ、名前を奪い、歴史を奪い、自分を知る人と引き離す…といった、奴隷制度で行われた人権を奪い壊していくやり方は、カルト団体のやり方とまったく同じで、やはり異常としか言いようがない。

かなり個人的な話なのですが、私は毎日のように夢をみるタイプで、迫害されて必死に国から逃れようとしたいる夢とか、無実の罪で不条理に投獄される夢とか観たことあって、それを思い出した。
夢ですら今思い出すだけで本当に恐ろしい…

この映画は、かなり「象徴的」に描かれているけど、現実世界ではわかりにくい形で、見えないところで、この映画と地続きなことが実際に起きていて、「現実ではありえない」と言えないところに、本当の恐ろしさを感じる。
ぬ