Jun潤

ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~のJun潤のレビュー・感想・評価

3.7
2021.06.20

「ステップ」「ファニーバニー」の飯塚健監督作品。
脚本は「青くて痛くて脆い」の杉原憲明と「アヒルと鴨のコインロッカー」の鈴木謙一。
地元が舞台の作品ということで公開を楽しみにしていました。
会場に見に行ったとか行ってないとか。

1994年リレハンメルオリンピック団体ラージヒルで銀メダルを獲得した西方仁也を中心に、1998年長野オリンピックの裏側で活躍した25人のテストジャンパーを描く。

全体的には感動的で良い作品でしたが、テストジャンパーの1人、小林賀子関連の話だけが個人的にマイナスポイントでした。
モデルとなった葛西賀子は日本女子ジャンプの黎明期を牽引した人物とのことで、ドラマ性を持たせるには十分な題材だったわけですが、ポリコレ配慮と言われても仕方のないようなぶっ込み具合に、賀子の父は作品の雰囲気にそぐわない不快なキャラ設定、演じた小坂菜緒の新入社員の挨拶みたいな演技も相まって、どうしても作品全体の評価を下げざるを得ない悪印象が残りました。

しかしそれ以外は前述の通り見応えのあるドラマで、事実を元にしつつも予定調和を感じさせず先が気になる展開に、全員ではないにせよテストジャンパーそれぞれにトラウマや抱えているものがあり、それを乗り越えて裏方として日本に金メダルを取らせたいという願いのために飛ぶ姿がとてもかっこよかったです。

演出面ではスポーツものの実写化としては最適解といった感じで、音や表情でもって選手たちのゾーンやイップスといった精神状態まで描き出していたのがとても良かったです。
雪をも溶かす熱さとはこのことでしょう。

キャラとしてはやはり主人公の西方ですね。
チームメイトの原田雅彦の不調により銀メダルで終わったリレハンメル五輪、金メダリストになれなかったことを人のせいにしない美徳が邪魔するかのようななんとも言えない悔しさが、痛いほど伝わってきました。
また、怪我をしても代表になるためにリハビリを続けたのに、選考から外れた時には、その姿を見ていたので彼の悲痛な叫びも耳に残りますね。
そして、テストジャンパーという裏方に意味を見出せずにいる弱さがあっても、仲間の想いに影響され、金メダルという目標すらも超えた、いい景色が見たいという欲望のために高く遠く飛んだ姿がまさしくヒーローに見えました。

キャストで言うと、田中圭や古田新太の安定感のある演技はもちろんのこと、今作では眞栄田郷敦と山田裕貴ですね。
眞栄田が演じた南川は若くして才能に溢れ、次のオリンピックを狙っている野心家として序盤は描かれていましたが、中盤以降は怪我をしたトラウマに囚われる弱々しい姿を見せてくれました。
そんなキャラの心情が眞栄田のハッキリした顔立ちに表れていて、彼の今後の作品にも期待大ですね。
山田が演じた高橋竜二は実在する聴覚障害を持ったスキージャンプの選手。
最近はわかりやすくパキッとしたキャラを演じることが多い印象ですが、今作では分かりやすさを表に出しすぎな印象も少しはありつつも、本当に聴覚障害なんじゃないかと思わせる演技はなかなか見応えがありました。

劇中のセリフにもありましたが、テストジャンパーを始めとする裏方は長野オリンピックだけでなくリレハンメルにもいて、そして今年開催予定の東京オリンピックにもいるのでしょう。
開催するのかしないのか未だに不透明ですが、いつか開催されたら、胸に「ヒノマルソウル」を宿した舞台裏の英雄たちがいることでしょうね。
Jun潤

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