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星の子のRickのレビュー・感想・評価

星の子(2020年製作の映画)
3.9
 何かを信じることで、救われる時もある。たとえ側から見たら奇怪に見えることでも、信じ続けることで、それは日常になる。日常にまで浸透すれば、信じるも信じないもない。ただそこにある生活であり、文化であり、人々でしかない。隣の家の生活と自分の家の生活は違うし、家庭ごとにどこにお金を使おうとするかも全然違う。本や映画などに使う家もあれば、スポーツやレジャーなどアウトドアに使う家もある。健康食品や健康器具に使う家だってあるだろう。同様に「新興宗教」と呼ばれる場所に使う人たちもいる。その人たちのことを「騙されているに過ぎない」と糾弾することは簡単だが、なぜ自分は騙されていないと言えるのだろう。分からない、分からないのだ。とにかく信じられるものを探し続けて、彷徨うしかないのかもしれない。それぞれがそれぞれの、きっと異なる場所にある信じられる星を見つけるまで。
 国民にとってトラウマ的な事件が起こってから、日本社会は「新興宗教」に対する強い恐怖と警戒心を持っている。そしてそれは今も社会に埋め込められている。それ以降に生まれた身からするとその空気感しか知らず、それ以前の対宗教感情は想像すら出来ない。だからこそ、見ている間ずっと居心地が悪い。ともすれば、よく分からないものを信じている登場人物たちに嫌悪感や恐怖すら覚えてしまうかもしれない。だからといって、それを声高に叫ぶことが良いこととも思えない。本作の視点は宗教2世である主人公の目を通した宗教的生活の内部にあって、観客は半強制的に感情移入させられてしまう。相対化したくても相対化できない気持ち悪さと、新興宗教を相対化することが果たして正しいのかという本能的(?)な警戒心、それでも登場人物たちに寄り添って考えてみたいという感情がごちゃ混ぜになる。きっと答えは出せないまま、何も信じきることができないまま、進んでいくことしか、自分にはできないのだと思う。
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