空海花

ハニーランド 永遠の谷の空海花のレビュー・感想・評価

ハニーランド 永遠の谷(2019年製作の映画)
4.2
「ランボー ラスト・ブラッド」鑑賞後に。
壮大な自然の景色を見て、解禁dayを終えようと。


だが美しい景色に癒されようなどとは甘い考えだった。

アカデミー賞で史上初、長編ドキュメンタリー賞、国際映画賞にWノミネート。
サンダンス映画祭グランプリ、世界各国でドキュメンタリー賞受賞など錚々たる評価。
只ものである訳がない。
でももっと生真面目でナチュラルな教科書的なものを想像していた。
実際はその上を行くほど生真面目な姿勢で撮影に挑み
よりナチュラル過ぎるドキュメンタリーだった。

ヨーロッパ最後の自然養蜂家の女性。
彼女の暮らすその谷は、北マケドニアの首都からたった20㎞程離れた場所だが電気も水道も通っていない。
最初の険しい山のシーンはこれも昨年衝撃だったドキュメンタリー「フリーソロ」を思い出した。
老いた母を介護しながら、遺跡の面影が残る跡地で、養蜂で生計を立てている。

これは昔ながらの伝統の製法というよりは
自然からの恵みを分けてもらう営みという言葉がしっくりとくる。
改良、は少しはしてきたのだろうが
そこに自分本位さはまったく感じられず
自然のあるがままの形を尊重し、敬意を払って共存する姿にまずショックを受けた。
生易しくはない。
それでも蜂に愛情を注ぐ彼女の優しさに胸を打たれる。

そしてここからがこの作品の奇跡と呼ばれる所以は、突然トレーラーに乗った家族が現れるその後の展開にある。
ドラマが始まってしまうのだ。
急に隣人となった家族、最初は仲良く過ごし
話し相手もできて楽しそう。
彼女の子供と接する姿と表情が優しすぎて涙腺が刺激された。
彼女について多くは語られないが、結婚もせず母と二人暮らしの経緯はある程度は察せられる。
しかし粗野で浅はかな父親が多くのものをぶち壊していく。
これが何かもう生々しくてまたショック。

マケドニアといえば、聞き覚えがあるのは
アレクサンダー大王の時代か。かなり古い。
地名さえ残ってはいるが古代の侵略の歴史に出て来るよう、民族と場所とが一致する歴史がない場所だ。
そうでなければこの文化を保存しようとか動きはあったかもしれないと思ってしまうけれど
それがないからこそ保たれた原初的な自然美に圧倒される私もちっぽけで浅はかな存在に違いない。

永遠の谷と呼ばれるあの場所は
また永い時をかけてあるべき姿へ還っていくのか
彼女はそれからどうしたのか
そして1番彼女を慕っていた少年のことも気になる。


2020劇場鑑賞No.76/total98

この日ショックの連続のせいか、ボーッとして帰りに電車を乗り間違えました(笑)
○各駅停車→×快速に間違えて通り過ぎちゃった。

それでも癒されなかったかというとそうでもない。壮大で険しいまでの景色に垣間見えた悠久の時を思えば、誰も居ない駅で少しくらい夜風に当たるのも悪くはない。
空海花

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