えいがうるふ

プロミシング・ヤング・ウーマンのえいがうるふのネタバレレビュー・内容・結末

4.9

このレビューはネタバレを含みます

予告編でハーレイ・クインを彷彿とさせるナースコスプレに扮したヒロインを見ていたせいか、もっとあっけらかんと女性がスカッとするタイプの作品をイメージしていたが、想像以上にヘビーな展開で思わず眉間にシワを寄せたまま見守ってしまった。
ようやくエンドロールに辿り着いたときには気持ちの持って行き場がなく、なんだかとても心が疲れた。同じような性犯罪に遭った女性たちがこの作品を見たとして傷ついた心が癒やされるとはとても思えず、かなりもやもやが残る。
・・が、だからこそ自分は鑑賞後に改めて性犯罪被害者のその後の人生について、あれこれ調べたり考えたりしてしまったので、恐らく表沙汰になるのはごく一部であろうこうした犯罪について社会全体に関心を持たせる、被害者予備軍に警鐘を鳴らし加害者予備軍に警告するという意味ではそれなりに成功している作品なのではと思う。

中盤の観ていて辟易するほどのラブラブバカップル描写があまりにもいかにもな見せ方だったので、絶対これで終わらないんだろうと思っていたら案の定である。そこらへんの観る者に対する飴と鞭のような緩急の付け方も周到で、アカデミー脚本賞も納得の見応えがあった。
そして、あからさまな衝撃映像や性描写で女優を単なる即物的な見世物として扱うことなく、スリリングな展開をじりじりと表現してみせたある種の配慮を感じる映像の作り込みにも感心した。直接的な性被害の現場を映し出さないのは、実際の性被害者のPTSDへの配慮もあったのだろう。センセーショナルな作風に見せつつも実際は一過性の話題になるより、より深い落とし所を狙った作品なのだと思った。

なにより、真面目で邪気の無いフェミニンな女性という印象の強かった主演のキャリー・マリガンが、まさに光り輝くような young promising woman だった人物が理不尽な痛みと怒りに耐える日々を重ねるうちに強かで危険な復讐者へと変貌してしまった様をルックスもろとも見事に体現していて、キャスティングの勝利。

作品の存在意義だけでも限りなく満点にしたいところなのだが、個人的にあまりにも結末が哀しくフラストレーションが残ってしまった(それが正解だと思うが)のでこの評点。


追記:
他の皆さんのレビューを読んでいたところ「でもやっぱりあんな格好で酒場に繰り出して泥酔してたら自業自得という面も否めないのでは・・」といった意見が(恐らくレビュアーの性別に関係なく)散見されたので、ちょっと書き加えたくなった。

みなさんが言ってることはよく分かる。基本的には男だろうが女だろうが他人の迷惑にならない限り好きな格好をするのは本人の自由だと思っている私でも、例えば我が子がもし下着が見えるような派手な格好で夜遊びに出かけようとしたら老婆心できっと声をかけるだろう。

しかし、対象者の見た目や状態がどうであれ、相手の同意なく手を出すのは犯罪であり、人として当たり前の理性を欠いた恥ずべき行いだという大前提があることを思い出してほしい。たとえ料理屋の店先にどれほど美味しそうに料理が盛り付けられていようと、売り手の同意なく勝手に食べたらそれは犯罪であり、「こんなに美味しそうに盛り付けて手の届くところに晒している方が悪い」なんて理屈が決して通らないことは、まともにしつけられた人間なら幼児だってちゃんと分かる。
人間と猿(動物)との決定的な違いとも言える、この当たり前のルールが、どういうわけか一部の人間もどきの間ではものすごく緩く認識されていることを個人的にすごく不快に思っている私にとって、こうした作品が少しでもその「当たり前のルール」の啓蒙になることを願ってやまない。