えいがうるふ

ほんとうのピノッキオのえいがうるふのネタバレレビュー・内容・結末

ほんとうのピノッキオ(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

予告編での幻想的な映像に期待感マシマシで臨んだものの、ちょっぴり肩透かし。
美術は文句なく素晴らしい。まさにお伽の国の映像化。本物の人間を作り物(人形)ぽく見せる特殊メイク、映像技術など見どころいっぱい。

ただしストーリーは良くも悪くもかなり雑で、童話ベースとはいえ子ども向けかというとかなり微妙。
グリム童話などと同様に、巷で子供向けとして普及している童話や児童文学の多くが原作ではよりえげつなく残酷な不条理展開だったり差別表現てんこもりであるのは珍しくないので、「ほんとうの」とわざわざタイトルに持ってきている時点でお察しではあったが・・。

別にPG12等のレイティングで問題になりそうなシーンがあるわけではないが、主人公のキャラクターや設定に一貫性がなかったり、回収されないままになる伏線が多いのが引っかかる。例えば妖精の前で嘘をついたら伸びて小鳥に齧られたピノッキオの鼻が、その後の裁判のシーンでもっとあからさまな嘘をついてもピクリとも動かない。古典童話らしく教訓めいたエピソードを入れるなら、そのへんは丁寧に一貫させないと幼い子どもほど混乱すると思う。
あと、可愛いロバの馬車に心躍ったかと思えば、あとに続く辛い展開がディズニーアニメなどよりはるかにシビアに描写されるため、年少児には若干ホラーかもしれない。大人の自分も動物好き・特にロバを偏愛する者としては胸が痛くて泣きそうになった。

逆に大人の視点で興味深く思えたのは、主人公ピノッキオとその生み&育ての親であるジェペット氏の関係だ。
私には、この作品でのピノッキオは木から作り出された人形(いわゆる木偶の坊)故に人の心が分からないというよりも、物心つけば当然のように周囲に期待される協調性や他人への共感や思いやりを持つことが難しく、多動などの問題行動も目立つために社会的に爪弾きにされがちな傾向を生まれ持っただけのごく普通の人の子どもに見えた。
一方のジェペット氏は、そうした人一倍手のかかる子の育児に振り回され散々苦労させられても、念願叶って授かった我が子としてひたすら慈しみ続ける健気で愛情深い親の姿に重なる。

そうした視点で見ていると、この作品はどんな子であれ愛しい我が子としてその成長を信じ、決して腐らず見捨てずひたすら愛情をそそぎ続ける親の愛の尊さを描いており、まさにそれをファンタジーとして夢見つつ日々のままならない育児に奮闘する親たちのため、つまり大人のための御伽噺のように思えた。