開明獣

世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカの開明獣のレビュー・感想・評価

4.0
その丸顔の小太りの老人は、白髪に白髭で、マテ茶を啜っている。それに相対して座している東欧から来た大男は、黙念と葉巻を燻らしている。ホセ・ムヒカ、ウルグアイの元大統領と、世界的な映画監督、エミール・クストリッツァは、まずは言葉を交わさずに対峙する。

若き頃はゲリラの闘士として、銀行を襲い、自らの身に十数発の銃弾を浴び、膵臓を失い、長きにわたって投獄され、艱難辛苦の末に革命を成し遂げた男、ホセ・ムヒカ。その凄惨な過去を顧みるに、最近観た「三島由紀夫vs全共闘」の映画に出てくる、元全共闘の東大生達を思い起こさずにはいられない。何かを実現させた男と、何も為せなかったのに、未だに敗北を認められない男たち。文化も歴史的背景も何もかも違うが、この差をもたらしたのは、何なのだろうか?日本を担ってきたエリート集団を輩出する象牙の塔を出自とする者たちは、所詮、体制の中でしか生きられない、培養された闘士だったのだろうか。

ムヒカの社会主義的思想は、「金が金を生む」、所謂、不労所得の源泉である、金融業を否定する。資本主義体制下では、ナンセンスにしかとられないのなら、イデオロギーそのものを抜本的に変えてしまおうという試みには、とてつもないエネルギーがいる。だが、ムヒカたちはそれをやってのけた。

過去、週刊新潮に、ムヒカの誹謗中傷の記事が載っている。ムヒカは、本国では道化師と言われ、誰も省みないし、蔑まれている等々だ。それをNaverまとめに転載し、Twitterでも、それを根拠にムヒカを中傷するヘイター達がいる。本国では、自由主義者に当然嫌われているし、作品中にも、富裕層と見られる男から、罵倒されるシーンがある。が、週間新潮の記事は明らかにバイアスのかかった悪意のあるもので、極一部の事実を歪曲したものだ。少なくとも英語で検索する限り同様の讒言は見当たらない。いかに、我が国のメディアが、いい加減な記事を撒き散らしているかの恥ずかしき例である。

それほどの誹謗中傷を受けて、5年も大統領が務まるものではない。貧困層に身銭を切って、住宅を建ててやってるのを、バラマキ政策などと呼ばわるにおいては、噴飯もののデッチ上げである。

スカイブルーのフォルクスワーゲン・ビートルに乗った男は、マラドーナ同様、クストリッツァの心も魅力してしまったようだ。
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