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トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャングのねむのレビュー・感想・評価

4.0
オーストラリアの国民的な義賊の生涯を、新しい感覚で再構築した映画。知ってる範囲だと「俺たちに明日はない」(ボニー&クライド)とか「ヤングガン」(ビリー・ザ・キッド)なんかに近い味わい。

…なんだけど、日本人にとってはかなりハイコンテキストというか、欧米オーストラリアの観客とは知識のバックボーンに差がありすぎて、私自身も残念ながら十分に味わえてない部分があったと思う。過去の映画化作品もまったく知らず。

①ネッド・ケリーという人物はオーストラリアでは超有名なアウトローで、義賊的な面があったことからヒーローとして人気が高く、これまでに何度も映画化されている(近いところではヒース・レジャーが主演しているが日本では未公開)。

②アイルランド移民がイギリス人、イギリス本国に抱く恨みや反抗心の深さ
元々イギリスに搾取されてきたアイルランドで、19世紀半ばに「じゃがいも飢饉」という大飢饉が発生したが、イギリスは何の支援もしないどころか搾取を続け、この頃大量のアイルランド人がアメリカやオーストラリアに逃れた(ちなみに有名だけどケネディ家などアイリッシュ系で大成功した人々もいる)。

③当時のオーストラリアの状況
もともとオーストラリアはヨーロッパから送られた犯罪者の流刑地だったために、治安が極度にアレ。

こういった背景はネッド・ケリーを観る上ではもう常識なのだと思われるが、この映画はその上にさらに、「支配的な母親との複雑な関係」「女装」「相棒との同性愛的な関係」「最貧困層白人青年の鬱屈」など、現代的なテーマを盛り込み、さまざまな角度から読み解ける感じになっている。

寒々としたオーストラリアの不毛の荒野や、暗闇に浮かび上がる炎と顔の見えない軍団…等、ホラー映画のような映像は魅力的。何と言っても主演のジョージ・マッケイくん、体脂肪率ひとケタですね!という、鍛え抜かれているのに脱皮したての昆虫のような痛々しさを感じさせる肉体の、おそるべき雄弁さよ…。終盤、顔を戦化粧のように汚し、黒いボロボロのレースのドレスをまとったビジュアルは100億点でした。
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