シュローダー

パーム・スプリングスのシュローダーのネタバレレビュー・内容・結末

パーム・スプリングス(2020年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

過去既に何十本も作られてきたタイムループ物というジャンルにまた新しい傑作が生まれた。この映画は一見ノリで撮っているかの様に見えるが、実際はとても丁寧に作られている。まず、「恋はデジャ・ヴ」などでも描かれたようにタイムループ物としてのお約束やツボはきっちり抑えてる。寝たら全てがリセットしている繰り返す日常故に主人公であるサラと、既にループを何万回も繰り返している軽薄な男、ナイルズがありとあらゆるバカな行動を楽しむパートが序盤から中盤にかけて繰り広げられる。ループの繰り返しの中で女や男関係なく誰と寝たかを語る場面や、ナイルズの彼女の発する言葉を完璧にオウム返しする場面や、J.Kシモンズとナイルズがラリラリになる場面などは、くだらなくもきっちり笑わせられた。このシークエンスに溢れる多幸感は素晴らしい。それを支えるナイルズ役のアンディサムバーグのあの笑顔一発で分からせる「イイ奴」感。これも絶妙。だが後半になると、そんなナイルズの振る舞いを裏返しに相対化する展開が待っている。すれ違いから喧嘩別れし、ループからの脱出を求めて量子物理学を猛勉強していくサラと、彼女を失って初めて強烈な孤独と不安に襲われるナイルズ。再び出会った時にナイルズは、不確定な未来に踏み出すのを恐れ、繰り返す毎日に留まろうとサラを諭す。男女の価値観の差が浮き彫りにぬるこの所で俺が映画が始まって2つ目のショットを見た時に抱いた「ん? これはまさか」という疑念が確信に変わる。この映画は、マイクニコルズ監督の「卒業」に大きな影響を受けて作られているということに気づくのだ。未来に興味が持てない若者が「結婚式」を通じて自分を見つめ直し、本当の愛に目覚める。という物語はまさに「卒業」その物。だが、ナイルズはあの映画のダスティンホフマンと違って、カッチリとした動機がある悩みらしい悩みは無いし、持てない。そこにこの映画の現代性がある。漠然とした不安しか抱けず、それを忘れる様にただひたすらにビールを飲んで人生を生きる彼らの姿に、僕は確かに自分の姿を見た。そして、そんな彼らが確かな「成長」を見せるラストの爽やかさたるや。歌詞が完璧にシンクロしながらノリノリで流れる「When the Morning Comes」のメロディも最高。デートで観るには最適なパーティームービー