Omizu

ふたつの部屋、ふたりの暮らしのOmizuのレビュー・感想・評価

4.3
【第93回アカデミー賞 国際長編映画賞ショートリスト入選】
昨年のアカデミー賞フランス代表作品。批評家賞やゴールデングローブ賞など前哨戦を快走していたのに本戦では落選してしまった作品。

同じくグアテマラ代表『ラ・ヨローナ〜彷徨う女〜』も落選して悲しかったな…

セザール賞では主演の二人が揃ってノミネートされ、新人作品賞を受賞した。

今まで『アデル、ブルーは熱い色』や『燃ゆる女の肖像』といった作品はあったが、老齢のレズビアンカップルを描いたものはあまり観られなかった。

その意味で今語られるべきテーマであると思うし、何よりテーマ以上に二人の心情を丁寧に描写した繊細な演出や、映画的な豊かさに溢れた作品であるように思う。

ホラー、スリラーという人がいるのも分かる。でもそうではない。ただ二人が一緒にいたくて、こうでもしないと会うこともできないから。ただそれだけ。純粋な愛の物語にほかならない。

立場を変えればホラーでしょう。特に介護士の女性にとってはニナは恐ろしかったと思う。彼女はとんだ災難だったなと思う。

でもニナはただマドに会いたかった。二人だけの時間を過ごしたかった。それだけ。どれだけトチ狂った行動にみえてもそれは強い愛ゆえ。

最後に施設から脱走するときにマドの娘は目撃しているのにすぐには追いかけない。最初は弟の方が理解を示すのかな?と思ったんだけど逆だった。それでよかったと思う。

あの後二人がどうなるのかは分からない。でも娘は完全に理解したのかは怪しいが強引に引き離すことはしないだろう。弟より自分の方が母を見てきていて、だからこそ最初はニナを拒絶するのだが、家に訪ねてきたときに一方的に拒絶する弟と違って娘は一瞬困惑したような表情を見せる。あの時どれだけ二人の気持ちが強いのかが少し理解できたのではないだろうか。

ニナの部屋の殺風景さと比べてマドの部屋は優雅でクラシック、それだけで二人がそれぞれどういう性格でどういう関係性なのかが分かる。

またタイトルでもある2という数字が随所にみられる。冒頭隠れんぼのシーンの道の両脇に並んだ並木、ビンゴの数字、時計の時刻…

長編一本目とは思えない芳醇な演出と丁寧な脚本が本当に素晴らしい。そして主演の二人も言わずもがな名演。マドは中盤以降喋れなくなってしまう。セリフなしでニナに負けず心情を表す、これは難役だよ!?そこは流石コメディ・フランセーズの舞台俳優、ちょっとした仕草や表情の変化で感情が手にとるように分かる。

僕自身ゲイということもあって、マイノリティがつらい目に遭う映画は観るのに躊躇するんだけど、本作は確かにかなり辛かったけど観てよかったと心から思えた。フランスは同性愛に寛容なイメージだったけどやっぱり高齢✕女性だとこんな偏見も差別もあるのねと思った。

まあそれは仮にも男性と結婚して子どもまでいてということでその子どもの立場だったら自分が否定されたように思うのは分かるかも。夫に虐待されていたというのも意味深。もしかして夫は妻が自分を愛していないと気づいていたのではないか。

その意味ではやはり『ナチュラルウーマン』『キャロル』を思い出した。でもそれは時代故に仕方がなかったのであって、「浮気」とかそういうことじゃない。世間にマイノリティは無視され虐待されてきたのだ。その中でなんとか世間に迎合しようとしていたのがマドなのだ。
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