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モロッコ、彼女たちの朝のあんずのレビュー・感想・評価

モロッコ、彼女たちの朝(2019年製作の映画)
4.0
静かだけど力強く、美しい作品。後からじわじわ来る。服やターバン(と呼んでいいのかな?)の色調や窓や光から、フェルメールの絵画を彷彿とさせる。どのシーンも美しい。女性たちのアップも多く、その微妙な表情の変化に心境が見て取れるのが素晴らしい。それらや、男中心の社会で立場の弱い女3人(1人は子ども)が力を合わせる姿は、『燃ゆる女の肖像』に通じる。そして、ここぞとばかりに流れる音楽が効果的に使われている点もやはり似ている。

日本で劇場公開される初めてのモロッコ映画とのこと。パン屋の外から聞こえる雑踏が異国情緒を感じさせる。イスラム教のこの国では婚外交渉と中絶は禁忌。それ故、臨月のお腹を抱えて行き場のないサミアは彷徨う。ここからして、日本人の私には衝撃的。

パン屋でカセットを聴くシーン、パンをアブラとサミアで捏ねるシーンは秀逸。ここでは最近、ハマっている濱口監督の作品を思い出した。パン生地を感じながら丁寧に捏ねるという動作は、自分自身の本当の声に耳を傾け、それを大事に生きて行くという象徴のように受け取れた。

出産後のサミアの葛藤と心境の変化は言葉ではほとんど語らずに、表情と身体表現で見せる。女優ではなく、本当の母親にさえ見えてしまった。

アブラとサミア、厳しい現実の中でのこの出会いが、きっとこれからの人生を灯す光になると信じたい。派手さは全くないけど、ミニシアター系のヒューマンドラマが好きな人には観て欲しい佳作。
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