えむ

83歳のやさしいスパイのえむのレビュー・感想・評価

83歳のやさしいスパイ(2020年製作の映画)
3.7
遠くの肉親より近くの他人。

この映画を見ていると、哀しいかなそんな言葉が浮かんでくる。

この作品、83歳の妻と死別したおじいちゃんが、家族から母親が施設でおかしな扱いをされていないか知りたいと依頼された探偵社に雇われて老人ホームに潜入するという、なんとドキュメンタリー映画なのである。

スパイとなって老人ホームに入るセルヒオの目を通して、ホームにいる人々の様子や想いをリアルに観ることになるのだけれど、その小さな世界での人々の暮らしを知って、その人間模様にどこか愛らしさを感じる反面、親を思って訪ねてきた入居者の家族が全く映されていないところがなんだか切ない。
(話の内容からゼロではないだろうとは思うけど、多くもなさそう)


実際に自分や友人たちの家族も同じような状況にあるけれど、電話して話してみると(今は面会禁止だからね…)、家に帰れるリハビリ施設であっても、数年もそこに滞在して、『家に帰っても1人だから、こっちの方が楽』なんて言っている人が結構多いということを聞いているし、家族が心配して電話を掛けてくるなんていうこともあまり見かけないという現状がこの日本にもある。

そうなると、もはや家族よりも共に生活する『仲間』『友人』のほうが余程親密で、気晴らしになるし、頼りになるのも分からなくはない。

だとしても、やはり家族は特別。
少しでも会いたいわけで、この依頼者のように人に任せ切りで自分からコンタクトやコミュニケーションを取らないでいると、ひたすら孤独は増していくばかりだ。

家族側の事情で限界があること、出来ることと出来ないことがあるのは身をもって知っているけれど、無責任になって
想いとか優しさとか配慮を忘れてはいけないな、と感じさせる作品だった。


今回は仕事として入ったのがきっかけではあっても、自分のことをちゃんと見てくれる友人が1人できたこと、ホームのおばあちゃんたちにとっては嬉しかったんじゃないかなあ。

ホームのリアルだけでは切なくもなるけれど、セルヒオは優しいから、子供たちに頼んでたまにはホームのお友達に逢いに行っていそうだな、なんて思えて終われたのは良かったな。
えむ

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