このレビューはネタバレを含みます
ドンヨリとした作風がいかにもイギリス映画らしい本作は認知症と闘う男性と彼の周りにいる人々の生活を男性の視点から描いた作品である。自分の大切な思い出が消えていくことに対する不安と恐怖、突如として訪れる悲しみ、、自分の家族も含め、周りで認知症と闘っている人が多いため、とても他人事と思えない。
これは実体験でもあるが、「忘れていくこと」に最も悲しみを覚えるのはその家族でも親戚でもなく、本人である。孫、子供、パートナー、自分。順番はさまざまであるが、突如として確実に忘れていく。美談としてまとめられがちなこのテーマと真正面からぶつかり、リアリティをもって描き切ったことが何より素晴らしいと思う。
ここからは映画の評価と全く関係のない余談。本作を今年イチの感動作（＝泣ける映画）とか言っている輩は、映画を全く観ていないか、この映画がなんたるかを全く理解していないことを曝け出しているようなものである。本作は決して観客を泣かせようとして作っているのではない。万が一、どちらにも当てはまらないにもかかわらず、売り文句でやっているのであれば、さっさと映画界から足を洗うべきだ。映画を愛するすべての人に対するとんだ侮辱に私ははらわたが煮え繰り返る思いである。
