サヨ

RUN/ランのサヨのレビュー・感想・評価

RUN/ラン(2020年製作の映画)
3.9

はじまりは、少しの違和感から。

代理ミュンハウゼン症候群に関する映画やドラマは結構あるものの、ここまで展開がドキドキするものが久しぶりで面白かった。代理ミュンハウゼンでよくあるペルソナとして、周囲からは”子供のために尽くす良き母親”でかなり外面が良いことがあげられる。ダイアンはまさにペルソナ通りの母親であり、さらに知能が高いために根回しや口が上手く、人を丸め込み自分のためならば他人を犠牲にすることに一切の躊躇いがないところ、やるときは徹底しているところがこのダイアンという母親の恐ろしさを際立せている。

クロエにとっては服薬は生活の一部であり習慣でもある。その中に混じる薬の正体は恐ろしさはもちろん、そんな薬を飲ませようとする母親という人間から逃げようとするのは妥当であり、映画を見ながら逃げてくれ...と手に汗握りながら視聴した。その中でも、郵便屋のお兄さんは狡猾なダイアンの言葉にのらず、クロエの言葉を信じて助けようとするめちゃくちゃまともな人でかっこよかった…こんなとこから入れる保険があるんですか(ない)。

印象的なシーンは、色々あるもののなんだか引っかかったのが冒頭の大学に行き自立する生徒の親たちが集まるシーン。皆が子どもとの別離への不安と寂しさを語る中、ダイアンが子どもであるクロエへの進学の夢を喜び、子どもとの別離を明るく話すシーンも後から答え合わせをすると、クロエの夢を潰してずっと一生にいる意志や依存がおそろしく、それにしても周囲への立ち回りが完璧で恐ろしい。

最後の意趣返しの復讐は、めちゃくちゃ皮肉的でよかった。血が繋がっていなくても長い間親としてダイアンを見てきたクロエは人の心を掴むのが上手く愛嬌があり、おそらく警備の人からもわざわざ会いに来るような優しい娘だと信用されている。実際は、人生を潰した母親だった人を同じ方法で甚振ることが目的でも。
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