河

ラモーの甥の河のレビュー・感想・評価

ラモーの甥(1970年製作の映画)
5.0
MUBIから消えるって知って、これ逃したら一生見る機会ないと思って見た そうじゃないと見なかった気がする

基本的には映像との組み合わせとしての音の実験集なんだろうと思う 会話からスピーチ、おしっこの音まで、体から発される音が全部入ってるし、それの使い方も全て入ってるような感じがする 4時間15分ぶっ続けで見てしまったけど、作品集として見てもいいかもしれない

作品ごとに本当に何が起こるかが全くわからないので、映像の切り替わる間の色の点滅と、映像が始まってなんとなくどういうのか把握できるまではかなりの緊張感とワクワク感がある 色の点滅、作品によってはちょっと長かったりして、次の作品に向けてここでリズムが整えられている感がある

あと、全作品始まり方が強いけど、それよりもオチというか、意表を突いた終わり方だったり投げ出したように終わったり、終わり方が全部かっこよかった 始まりと終わりの一瞬に創作的な緊張感が一気にひきつるの、この監督とジョンカーペンターくらいのもん

タイトルが出るところで、タイトルが、カナダなんとかの協賛による(10分くらいずっと読み上げられる出演者名)出演のボッカチオ作のデカメロンを元にした〜っていうひたすら長くしただけのタイトルってことがわかる このやたら長いスタッフロールと完全に無駄な出演者名の、しかもたどたどしい読み上げの時点で心の準備をした 音によってタイトル、スタッフロールをリズミカルかつひたすら冗長に変えているって点でこの映画の導入って感じがする

最初の長い映像である飛行機での会話の、時系列的にも内容的にも循環する、戻ってからの枝分かれからの元の枝に戻る、吃り、スキップ、音量が絞られるとかで会話のルールが崩れていく、なのに成り立っていて飛躍しながら会話が進んでいく、映像が会話と作用し合う、それらの仕掛けをその会話内でメタ的に言及する、会話に入れてない人としての観客への視線と介入みたいな、明らかに自分の全く知らない独自の法則によって成り立ってる空間感に度肝抜かれた 4時間の中でも、このスペーシーで未知なのになぜかキャッチーな感じが一番好きだったかも知れない

洗面台と蛇口からの水を活かした演奏、多言語がミックスされた状態の文章のかオリジナルの言語の読み上げからの、飛行機のシーンと同じようなことがレコードと台本をギミックとして使いつつ行われると思ったらそのまま同じ音が繰り返されるようになり動きがなくなり、だらける人々と映写機の光をひたすら眺めることになる 不規則かつポリフォニックになる音の異様な気持ちよさ含めて、ここは自分も映画と一緒にだらけるべきシーンなのかもしれない

キューっぽいものの方向とカメラから観客が被写体とされてることがわかる中の会話シーンだと思ったらまさかのそのまま同じシーンの逆再生始まる、その次のチューニングが定期的にずれる飛行機の会話と違って、決定的にチューニングの外れる最初の半分の最後にあるシーン、最初の何してるのかそもそもわからないインディアン?の静止画から人が現れるまで、広東語のセリフからどんどん狂っていくまでが異様すぎてトラウマ そっからの次の2時間の最初がおしっこバケツ音っていうのも最高

ブルジョワみたいな人たちが声をモルモットにしたような実験をひたすら行なっていく、ボブディランがきまずさに変換される 机の上のものを規則的に動かしていく、それが高速でナレーションされる、規則的に動かしていくけど不可逆な動きが含まれるから絵面としてはどんどんカオスになっていくけど、だんだんと法則が見えてきて最終的に何かが組み立てられる、と思ったら気づいた時にはナレーションは同じことを繰り返していて動きと全く連動しなくなっている

高笑いの音と全く一致しない退屈そうな映像、雨の静止画の連なりと雨の音だけど雨と音は一致しない、ラジオの会話と三色の映像の連続 って感じでワンアイディアかつ瞑想的な短編が続いた後、宇宙的なバイオリンの音と光、映像が逃げていく!からの映像が歪んで暗転したりして、次に何が起こるか全くわからないままだんだんとゆったりとした魔術的で瞑想的な世界にもつれこんで、最後節操のない音楽の使い方でぶち上がる最後の長い作品、最後だけあってこの映画の集大成感あったし飛行機のと並んで非常に最高だった まさか結合部分そのまま見せられるとは思わなかったけど

最後、最初と円環するように短い映像で締められていくのもかっこよかったし、クレジットまた読み上げられ始めた時は一瞬ゾッとした そっからの汚い音連発からの何か言ってるようで全く何も言ってない長セリフからの何?って感じの馬鹿にした映像でパンって終わるの最高すぎた

最初に示された箱の中身は空で、最後の畳み掛けでこの映画に考察させるような中身はないよって言われたような感じ 難解さの可能性を否定して考えに耽らさせずに、普通に楽しい時間を過ごしたとして最後に解放してくれるの優しい

途中本当に暇すぎて狂いそうな時間はあったけど、見たことないしこの映画以外で見れることないだろう最高の瞬間がいくつもあったから、見て良かったなと思う
河