倉科博文

グリード ファストファッション帝国の真実の倉科博文のレビュー・感想・評価

3.2
「あなたにとって成功とは何か、そしてなぜ成功したいのか」

イギリス発祥のファストファッションブランドTOPSHOPなどを擁するアルカディアグループの創業者フィリップ・グリーンの人物史をモチーフにした興亡譚

その成功によりイギリス政府からナイトの爵位(Sirの称号)まで贈られた後に、その闇深さから爵位剥奪をされるという劇烈な人生の浮き沈みは作品として仕立てるには絶好の題材であったろう

現実のフィリップ・グリーンはコロナウィルス感染症の大流行による影響でアルカディアグループ破産という結末に終わるが、劇中の『リチャード・マクリディ』はさらに劇的な最期を遂げる

この作品を観た直後は、社会風刺的な意味合いや映画作品としての因果応報的なパッケージにしか感想が向かなかったが、『ライオン 25年目のただいま』のような作品を観た後だと、世界の対比がよく見える

人はあまりに貧しいと周囲に対してあまり優しさや愛を表現し得ない
曰く、貧すれば鈍す
人に優しく、そして愛を持った行動をし得るには、ある程度の生活のゆとりや安定性があるに越したことはないのだろう
一方で、生活のゆとりを目標とし、商業的あるいは社会的な成功を追い求めると、そのためには人を欺き、踏みつけのし上がる狡猾さや豪胆さが必要となる場面がでてくる
『君主論』の世界だ

貧しくても地獄だし、苛烈に成功を追い求める人の心の中にもある種の地獄がある
その中庸に優しさはあるような気がするがしかし、画期的なイノベーションは後者によって産みだされる

いずれにせよ、『強欲』に駆動され、大きなイノベーションも無く、弱者から搾取するだけのビジネスはこの世には要らないと心より思う


P.S.
風刺性、ブラックユーモア、貧富の差に対する問題提起は大いに感じ入るが、オチに至る伏線と回収も含めストーリーラインは大仰なだけで上手くない